──久しぶりに共演された感想はいかがでした?
オダギリ「この10年の間の、もちろん蒼井さんのお仕事はいろんなところで拝見してました。演技の幅もどんどん広げられてきて、特に舞台作品を通じていろんな経験を積まれたと思うんです。今回一緒にお芝居をして、あらためてその重みを実感したと言いますか…。率直に、演技者として凄い人だなってずっと思ってました」
蒼井「私まったく同じです。あと、演技面はもちろん、作品との関わり方でも刺激を受けましたね。いい意味で肩の力が抜けているというか…。『え、主役の方がこんな時間まで飲んでいてもいいんだ!』みたいな(笑)」
オダギリ「(笑)」
蒼井「みんな、オダギリさんのこと『不良先輩』って呼んでたんですよ」
オダギリ「いや、単に主演の自覚が足りないだけです(笑)」
蒼井「いえいえいえ(笑)。私が今までご一緒してきた主演俳優さんって、どこかで映画を背負って立つ覚悟が見えやすいというか……監督と並んで、作品の中心にいる感じがしたんですね。でもオダギリさんは逆で、中心から一番離れたところで全体を見守ってる感じがした。『蟲師』の頃は私が未熟すぎて、そういう立ち位置のことは全然分からなかったんですけど。今回、『あ、こういう作品との関わり方もあるんだな』と思って、すごく気が楽になったんです」
オダギリ「そう言っていただけると、ちょっとだけホッとします」
──今回の撮影現場で、特に記憶に残ったシーンやエピソードなどがあれば、教えていただけますか?
蒼井「そうですね……今回、夜の動物園で、白岩と聡が自転車を2人乗りするところがあるんですね。で、その頭上から鳥の羽がいっぱい降ってくる。映画ならではのファンタジーというか、大好きなシーンなんですけど。実はあれ、山下組のメイクさんの発案なんですよ。その場面で何か印象的な仕掛けができないか、監督がスタッフから匿名でアイデアを募った結果、羽の案が採用された。そのエピソードを聞いたときはすっごくいいなと思いました。『オレが、オレが』みたいな感じじゃなく、そういうことが自然にできる山下監督ってすごいなって」
オダギリ「たしかに。民主主義ですよね」
蒼井「ただし本番では、みんなが想像していた3〜4倍も降ってきたという」
オダギリ「そうそう、真夜中にとんでもない量の羽を降らす山下組(笑)」
蒼井「もう1つ──これは別に感謝してるわけじゃないんですけど、ものすごく不安な状態のまま私を放っておいてくださった。山下組って、明らかに私が心配そうでも、役についてアドバイスするとか、『大丈夫?』って気を遣うとか、一切ない。それはすごく憶えてます。放置されることで、役作りしなくても自然と聡の不安定な心情に近づけたというのも、結果的にはあったかもしれませんね」
オダギリ「ああ、なるほど」
蒼井「すべてのシーンを撮り終えた日、スタッフの皆さんとホテルのロビーで乾杯したんですね。そのとき山下さんは『俳優が自分で観たいと思うような映画は撮りたくない』って仰ってて。その意味では私なんか、監督の思う壺だったなと(笑)」
オダギリ「演技の話からは離れるんだけど、僕は個人的に、山下監督の風景ショットの使い方がすごく好きですね。例えば、鉛色の空を背景にカモメが飛んでるところ。何気ないんだけど、墨絵のような映像が絶妙なタイミングで入ってくることで、函館という土地のちょっとした閉塞感とか、聡と白岩が置かれた境遇が、余韻として心に残る。そういう独特のタッチやリズムは監督らしいなと思います」