映画を彩るファッション、そして空間デザイン
————ルコント監督は過去にオリヴィエ・アサイヤス監督作などで衣装関連のお仕事にも携われていますね。前作『冬の小鳥』でも衣装や空間デザインのあり方がとても印象的でしたが、今回はどのようなビジョンで臨まれたのでしょう?
ルコント「今回、ファッションやモードといった観点から考えることはしませんでした。その代わりに撮影監督との間でまず試みたのは、それぞれの登場人物に何らかの特徴的な色合いを与えていくということです。たとえばヒロインを演じたセリーヌ・サレットはとてもブルーが映える女優だったので、この色は欠かせないものとなりました。ほかにも登場人物に合わせて様々な色彩を配置しています。それからもう一点、衣装のつくりに関して言えば、俳優たちがいかに快適に着こなせるかがポイントでした。服装が彼らの個性を縛り付けることのないよう、とにかくナチュラルに見えるファッションを重視したんです」
————なるほど。キャラクターごとに色合いがあり、その掛け合わせによって演技や空気のコントラストやグラデーションが生まれていくわけですね。
ルコント「そうですね。色合いは様々なかたちで登場人物の外見や内面に影響を及ぼします。それはファッションにとどまらず、風景や建物、それから内装などにも共通して言えることです。本作では空間的な色彩にも気を配り、とりわけエリザが理学療法士として働く診療室のカラーなどは既存の壁を塗り替えたりしながら慎重に色合いを選びました」
————空間デザインの面では、ダンケルクという舞台もまた大きな要素を占めています。
ルコント「ダンケルクは第二次大戦で破壊され、その後も衰退と再建を繰り返してきた港町です。私はこの町並みが象徴的な場所になりうると確信しました。ここに広がる海や砂浜、赤レンガ倉庫や港湾労働者、青く晴れた空、真っ白い大きな雲・・・。これら全てが物語や登場人物に深い影響を与えていると思います」