―ソロとしては今回の『ピアノ』も含めると3枚目のアルバムをリリースされています。その中で、今回の『ピアノ』は、あなたにとってこれまでの作品とは違った特別な意味を持つ作品、と言えると思いますか? だとするならば、それはどのような理由で?
アレクシス「もちろん違った意味を持っているよ。なぜなら新たな環境下で作られた新しい作品だからね。しかし大きな違いは、この作品はピアノ、オルガン、ヴォーカルのみの最も使用楽器が少ない作品であるのに、アルバム全編を通して僕が他の誰かと作った最初の作品なんだ(Shuta Shinodaがエンジニアとしてアルバムをレコーディングしたんだ)。あと、自宅ではなくレコーディング・スタジオで作られた僕の初めての作品だね。サウンドも全く異なっているよね。僕の他の作品ではレコーディングやプレイに対してのアプローチはもっと実験的だけど、この作品はより古典的だ」
―今回の『ピアノ』を聴かせていただいて、過剰にドラマチックな演出をすることなく、聴き手に語りかけるような歌声や音色の親密さに強く心が揺り動かされました。今回のアルバムを作るにあたって、あなたの中でもっとも大切にされたことは何でしたか?
アレクシス「演奏だね。好きだけどライヴの演奏で説得力がなく感動を呼び起こさない曲は、あえて忘れるようにした」
―以前にソロ用に書かれていた曲はアバウト・グループの2作目『スタート・アンド・コンプリート』に使われた、とのことですが、その時に書かれていた曲と今回のアルバム用に書かれた曲とで、一番の違いを上げるとするならばそれは何でしょうか?
◎About Group / Don’t Worry
アレクシス「『スタート・アンド・コンプリート』の曲は元々はソロのピアノで僕一人で全くのソロとしてレコーディングされたんだ。けど、アバウト・グループのセカンド・アルバムとして、リハーサルもなくアルバムそのままのライヴでのアレンジで一日で再レコーディングしたんだ。その中の曲のいくつかはこの作品でも使用されている。僕のソロの曲の多くは、声と一つの楽器だけでの演奏となったら、同じようなフィーリングを持っているんだ。新しいソロのヴァージョンとアバウト・グループのヴァージョンとの間にある大きな違いは、プレイ自体と僕、チャールズ、パット、ジョン(注:アバウト・グループのメンバー)によるインプロヴィゼーションだね」
―楽器はピアノのみ、という極めてシンプルな作品を作り上げる過程は、あらためて自身のソングライティングを見つめ直す機会でもあったと想像しますが、その点で新たな発見や気づきのようなものはありましたか?
アレクシス「このアルバムは僕のソングライティングの片面のみを反映していると思う。ホット・チップの共同ソングライターであるジョー・ゴッダードとの曲はこの作品の曲とはかけ離れているよね。この作品にはより精力的なソングライティングのスタイルと、遊び心と自信にみちたヴォーカルがある。対して、一緒にダンスミュージックを作り、互いのアイデア、個性、エネルギー、提案を利用するのがホット・チップのやりかただよ」
―リリックについては、どのようなことがテーマになっているのでしょうか?
アレクシス「愛、喪失、音楽、友情、神学、紛争、光、いろいろだね」
―今回の楽曲の中で、自分の素の部分、プライヴェートな心情がもっとも赤裸々に表現されている曲を挙げるとするならば、それはどの曲になりますか? あるいは、ストーリーテラーとして最も手応えを感じた曲を選ぶとするならば?
アレクシス「”So Much Further to Go”と”I Never Lock That Door”かな」
◎Alexis Taylor / So Much Further to Go
―最後に、あなたにとってフェイバリットのシンガーソングライターを教えてください。出来れば理由も併せて。
アレクシス「プリンス。彼の深い感情、自信、崇高、プロダクション、創意、ユーモア、セクシュアリティ、ドラムプログラミングだね。あと、彼の感動的な能力。EU離脱の国民投票がおこなわれた直後のグラストンベリーで彼のレコードをかけている時に、未来に対しての彼のヴィジョンと、生活を変える恐ろしい出来事だけどダンスしてメイク・ラヴをしよう、という彼の呼びかけを感じとったんだ。そうした僕を涙させるような、彼の感動的な能力」
◎Alexis Taylor / Old Friends 4 Sale (Prince Cover)
取材・文 天井潤之介/interview & text Junnosuke Amai
企画・編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara
ALEXIS TAYLOR 『PIANO』
アレクシス・テイラー『ピアノ』
発売中
【収録曲目】
1. I’m Ready
2. So Much Further to Go
3. Crying in the Chapel
4. Without Your Name
5. In The Light of the Room
6. Lonely Vagabond
7. Repair Man
8. Don’t Make My Brown Eyes Blue
9. I Never Lock That Door
10. Just For A Little While
11. Don’t Worry