(C)Winehouse family
──健康的で音楽への情熱をほとばらせている前半に対して、エイミーの恋人だったブレイクが登場してからは徐々にはつらつとした表情が失われていきます。しかし、彼女自身はブレイクとの愛があるので幸せだったはずです。その外見と内面のギャップが徐々に痛ましくなっていきますが、監督自身もっとも辛いシーンはどこだったのでしょうか?
アシフ「実は一番フッテージがあったのは後半の時期からの映像なんです。異常なくらいに多かったですね。悲しいエイミーだったり、ちょっと映されたくないエイミーだったり、パフォーマンスで失敗してしまうエイミーだったり……。一度観ると固定化されてしまってなかなか拭えないものなので、観た人はこういう人だったんだなと思うはずです。しかし、僕は彼女がなぜこうなってしまったのかということを描かなければいけないので、当然そういう不愉快な映像を使わなければなりません。ですので、そのあたりのバランスが結構難しかったのです。エイミーを馬鹿にするような、恥さらしになるような映像は使いたくはなかったけれども、映画では彼女の本当の姿を説明しなければならない。そういう意味で情報過多であってはいけませんが、きちんと説明しなければならないところが難しかったです。
彼女は助けを求めていたし、要所要所で救えたところがあったと思うんです。ですので、どうして彼女を助けてあげられなかったのかというところも明確にしていかなければなりませんでした。そういうあらゆることを描いて行く中で出しすぎのラインって、どこなんだろうってことをいろいろ考えましたね。とても難しい映画でした」
──結果としてアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。
アシフ「この映画を製作するにあたり、誰もがこの作品を信じてくれました。エイミーがどんな曲を作り、実際はどんな人だったのか、どれだけ美しく、楽しくて、機知に富んだ特別なアーティストで、大切にしなければならない存在だったのか、その真実の姿を描きました。それが結果として賞の受賞という形で、みなさんに認めてもらえたことは非常に光栄なことだと思っています」
──監督自身、エイミーのいちばん好きな曲は?
アシフ「やっぱり“ティアーズ・ドライ・オン・ゼア・オウン”が一番好きです。それと、もうひとつエイミーのこのストーリーを一番象徴的に語っているのは、“ラヴ・イズ・ア・ルージング・ゲーム”ですね。とにかく彼女の音楽について言えることは、僕は彼女のギターと歌、シンプルなライヴに尽きるということ。レコードは本当にヒットしましたけれども、正直あんまりレコードには惹きつけられなかったんですよね。彼女のシンプルにステージ上でギターを手にして歌っている、そのライヴがすごく好きで、それを観てファンになりました。なので、そのレコードのアルバムの方はみんなが買って歌って踊って、ノリノリになるようなものなんですけれど、逆にノリノリなので歌詞の重みが削がれてしまうというか。なので、シンプルにカメラに向かって歌っていたりとか、友達と歌ってたりしている彼女がすごく好きなんです。この映画の中でのいちばん好きなライヴ映像は、ダニー・ハサウェイのカヴァーをしている、“ウィアー・スティル・フレンズ”という曲を歌っているエイミーがすごく素敵だと思います」
──日本の観客に対して、ここを注目してほしいというシーン、そしてメッセージをお願いします。
アシフ「とにかくこの映画はリアルなエイミーを見せる映画です。わたしは彼女の周りの友達だとかマネージャーのニックとか彼女を愛していた人たちから君はいったいどんな映画を作るのか? タブロイド紙とかスキャンダラスなエイミーを撮るのか、あるいはリアルな本当の彼女の姿を撮るのか、どっちのエイミーを見せるのか? と試されていました。わたしはリアルなエイミーを撮るということをひとつのミッションとして抱えて撮りました。この映画の中では、とてもひょうきんで美しくって聡明な有名人になる前の素敵なエイミーがフィーチャーされています。有名人になるということは本当に人に害を与えることになるんですよね。名声というのは身を滅ぼすもとです。この映画ではアイコン的存在になるよりも前の幸せで若いエイミーを見せます。非常に人間として素晴らしく特別な存在でありましたし、彼女は愛と保護を求めていたんだと思います。しかし残念ながらそれをいまいち得られなかった人だったということをみなさんに観てわかってもらえたらうれしいですね」
文 油納将志/text Masashi Yuno
映画『AMY エイミー』
7月16日(土)角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ新宿他にてロードショー
監督:アシフ・カパディア『アイルトン・セナ ~音速の彼方へ』
出演:エイミー・ワインハウス、ミッチ・ワインハウス、マーク・ロンソン、トニー・ベネット他
配給:KADOKAWA
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