──池松さんはいかがでした?
大森「やっぱり、チャーミングですよね。少年っぽいのに、独特の色気がある。演技者としてはものすごくうまいし、映画作り全体のプロセスも深く理解していて…。そのなかで自分のやるべきことを正確に見通せる俳優、という感じがすごくしました。例えば映画のラストで、内海が瀬戸にミルクティーを渡すところがあるんですね。それにしても脚本には『内海、ミルクティーを取り出す』としか書いてなかったのを、池松君が自分で2つ用意してきて、ああいうシーンになった。そういう俯瞰の視点も持てる人です」
──2人とも役作りが深いだけじゃなく、現場での反射神経も優れていた?
大森「正直言うと俺、俳優さんの役作りってあんまり信用してないんですよ(笑)。頭で考える作業は、脚本段階でこっちが散々やってるので。役者にはあまり頭でっかちにならずに、1つの肉体としてその場で反応してほしい。例えば川沿いの石段にずっと座ってると、お尻だって痛くなるじゃない。周りには光を遮るものが何もないから、日差しが眩しくてたまらないかもしれない。そういうのも全部引っくるめて、その人物になってほしいわけ。その意味では2人とも、撮っててすごく楽しかったです。瀬戸がガクランを脱いでTシャツの袖を肩まで捲るところとか。スニーカーを脱いで裸足になるところとか、こちらからは何も指示してません。自然に出てきた動作を、そのまま撮ってます」
──その楽しさは、観ていても伝わってきました(笑)。
大森「最近、日本映画のパワーが落ち気味なのとシンクロするように、俳優の言葉がだんだん強くなってきてる感じがあるんですね。何だろう……意味を込めすぎて、かえって押し付けがましく感じられるっていうのかな。僕は個人的に、そういう傾向があまり好きではなくて。シンプルに『ただ演ってくれればいい』って思うところはある。僕はときどき俳優もやりますが、あまり才能がないこともわかっているので(笑)。実は役者に対してリスペクトする気持ちがすごい強いんです。でもそれは、演技についてあれこれ深く考えてるからじゃなくて。むしろそれをすっ飛ばして、平面的だった役に血肉を通わせることができる人たちだから。一流の俳優はみんなそうですよ。『監督、このセリフにはどんな意図が込められてますか』なんて絶対聞いてこない」
──なるほど。
大森「たとえば菅田君って、地元が大阪なんですね。で当初、僕に『大阪弁なんだけど、むしろテンション低めに喋っていいですか?』って彼の方から提案してくれた。でも実際現場に入って演ってみたら、思ってたのと違ったりもするわけですよ(笑)。そうすると即座に『監督、やっぱり声のボリューム、少し上げてみます』って照れくさそうに修正してくる。そうやって自分で発見することが何より大事ですから」
──全般的に楽しい撮影だったみたいですね。
大森「うん。夕方には撤収して飲みにいけましたし(笑)。特別何かメッセージを込めたわけでもないけど……ありふれた空気のなかに、普通の高校生ものとはちょっと違う面白さがあるのかな、とも思うので。ただ瀬戸と内海がそこにいる感覚を、気軽に楽しんでもらえると嬉しいですね」
取材・文 大谷隆之/interview & text Takayuki Otani
企画・編集 桑原亮子/ edit Ryoko Kuwahara
『セトウツミ』
7月2日(土)新宿ピカデリーほか全国公開
監督:大森立嗣 『まほろ駅前狂騒曲』『さよなら渓谷』
原作:此元和津也 (秋田書店「別冊少年チャンピオン」連載)
出演:池松壮亮 菅田将暉 中条あやみ
鈴木卓爾 成田瑛基 岡山天音 奥村 勲 笠 久美 牧口元美 / 宇野祥平
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C)此元和津也(別冊少年チャンピオン)2013
(C)2016映画「セトウツミ」製作委員会