Yusuke Yamatani 山谷佑介 house#001, 2016, archival pigment print
ユカ・ツルノギャラリーは、山谷佑介と松川朋奈による二人展「at home」と沢渡朔の個展「Rain」を2016年6月4日(土)~ 7月2日(土)まで開催。
山谷佑介と松川朋奈の新作で構成される「at home」は、「家」に象徴されるような私的な日常空間に浮かび上がる、人間の営みの痕跡に焦点を当てた展覧会。一方、沢渡朔の「Rain」は、カメラを持つ手に蓄積された時間の中、雨の情景を敢えて無意識に撮影してきたプライベートワークとなる。
国内外を放浪して様々なアンダーグラウンド・コミュニティで過ごす中で写真を実践してきた山谷。
本展覧会では、「箱」として立ち現れる家を、赤外線カメラで外部から撮影した新シリーズを発表。不可視光線に反応する赤外線カメラを使っても、厚い壁で仕切られた家の中はもちろん覗くことはできない。そのような「箱」としての家を、覗き込むことのできない諦めと、それでもなお人間の営みを覗いてみたいという欲求とともに、人間の痕跡らしきものを捉えることの可能性を探求している。
Tomona Matsukawa 松川朋奈
I still think of it「今でも時々思い出すの」, 2016, 80.3 x 116.7cm, oil on panel
一方、松川朋奈は一貫して、同世代の女性たちの癖や生活習慣などが、身の回りの事物に「痕跡」として残されていることに注目。近年はインタビューを重ね、その中で印象に残ったフレーズを作品の主題およびタイトルとし、彼女たちの持ち物や身体を写実的な表現方法を用いた絵画として再構成している。日常生活の中でうまれる破損、形の崩れ、傷跡といった痕跡は、一般的にあまり好まれないものとして受け取られているが、松川は、それらに表れる人間性や人間の内面に関心を寄せている。事物の忠実な再現をするのではなく、モチーフのクローズアップや筆跡を残さないフラットで美しい表面など、絵画上で再構成することで、これら人間性の影である残痕を新しい価値へと転換させることを試みている。
二人は、写真と絵画という全く異なる方法を用い、またそれぞれ別々な角度から、かつてはそこにあったという不在の痕跡ではなく、その痕跡とともに生き続けるような人々の痕跡に関心をよせている。それらは、他人の存在や日常の不可視な側面へと歩み寄っていこうという取り組みでもあるのだ。
Hajime Sawatari 沢渡朔 Rain, 2016, pigment print
また、沢渡朔「Rain」においては長年ファッションフォトやヌードフォトを中心に、女性との向き合いに熱を注いできた沢渡が、無意識下の中で色として写り込む雨越しの街との出会い頭の光景を、デジタル撮影ならではの光の反射のうつくしさ、艶めきを感じながら、昭和の歌謡曲にも似た郷愁や希望の情感を自分自身の中に探っている。他人への興味を、痕跡を通して追求している山谷と松川の「at home」と、カメラが捉えた世界そのものである沢渡の「Rain」の、両者の違いについてもぜひ注目したい。
<作家プロフィール>
山谷佑介
1985年新潟県生まれ。立正大学文学部哲学科卒業後、外苑スタジオに勤務。その後、移住した長崎で出会った東松照明や無名の写真家との交流を通して写真を学ぶ。近年の展示に「KYOTOGRAPHIE」(2015年、無名舎、京都)、「Yusuke Yamatani: Recent Works」 (2015年、アリソン・ブラッドリー・プロジェクツ、ニューヨーク)、「Four From Japan」(2015年、 コンデナスト、ニューヨーク)、「東京国際写真祭」(2015年) など。写真集・モノグラフに『Tsugi no yoru e (2nd ver)』(YUKA TSURUNO GALLERY)、 『ground』(lemon books)、『RAMA LAMA DING DONG』(self published)、『Use Before』(a0)など。
松川朋奈
1987年愛知県生まれ。2011年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。近年の展示に「シェルアーティストセレクション」(2013年、国立新美術館、東京)、「クウキのヨメナイ、ワタシたち」(2013年、CAPSULE gallery、東京)、「Artist Meets 倉敷vol.12 松川朋奈」(2016年、大原美術館、岡山)など。ホルベインスカラシップ(2010年)、福沢一郎記念賞(2010年)を受賞。現在、「六本木クロッシング 2016展:僕の身体、あなたの声」(森美術館、東京)に参加中。
沢渡 朔
1940年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科在学中より写真雑誌等での作品発表を始め、日本デザインセンター勤務を経て、1966年よりフリーの写真家として活動、現在に至る。1973年日本写真協会年度賞、1979年講談社出版文化賞写真賞受賞。写真集・モノグラフに、主に女性を被写体とした写真集の『NADIA 森の人形館』(毎日新聞社)、『少女アリス』、『海からきた少女』(河出書房新社)、『小沢征爾』(集英社)、『昭和』伊佐山ひろ子(宝島社)、『hysteric ten』、『a girl』(hysteric glamour)、『Cigar』三國連太郎(パルコ出版)、『60’s』、『60’s 2』(ワイズ出版)、『森山大道×沢渡朔』、『Kinky』、『Nadia』新編版(Akio Nagasawa Publishing)、『Showa 35,JAPAN』(MATCH and Company)、『なぎさホテル』(SUPER LABO)など。他、個展、グループ展多数。
<開催概要>
山谷佑介&松川朋奈「at home」+ 沢渡朔「Rain」
会期:2016年6月4日 – 7月2日
オープニングレセプション: 6月4日(土)18:00-20:00
開廊時間: 火 – 土 11:00 – 19:00