──どういうことでしょう?
真木「人はみんなそうだと思うんですけど、響子という1人の女性のなかには、いろんな距離感が混じってるんですよね。たとえば、元ダンナである良多(阿部寛)との距離感。良多のお母さんで、響子にとっては元・義理の母にあたる淑子(樹木希林)との距離感。息子の真悟(吉澤太陽)との距離感。あとは、良多の悪口ばかりチクチク言ってくる今のカレシ(小澤征悦)との距離感(笑)。話し相手が誰かによって、表情とか口調が微妙に変わってくると思うんです。たしかに今回の脚本には、日常のテンションを大きく超える感情は描かれていないけれど……でも、そのなかで響子の持ってるいろんな面をきちんと出そうは、つねに考えていました。団地という舞台設定も、そういった距離感の面白さをより際立たせてくれたんじゃないかと思います」
──物語後半。台風で帰宅できなくなった響子と真悟が、良多の実家で一晩すごすシーンですね。淡々としているのに引き込まれる、本作のクライマックスでした。
真木「そう。今回の映画は、是枝監督が実際に育った団地でロケ撮影されてるんですが、間取りが3DKでギュッと狭いんです(笑)。そこに4人が集まってるので、いろんな顔をしなきゃいけない。真悟に対してはもちろんお母さん顔で接するし。元ダンナの良多には愛想が尽きてるけれど、でも憎んでるわけじゃないという微妙な感じ。良多のお母さんに対しては、親しみと後ろめたさが入り混じった複雑な感情があるだろうし…。そうやって狭い団地でいろんな感情が交差する感じが、なんかこう、リアルだなぁって(笑)」
──そういう細かい表情の使い分け、是枝監督は具体的に言葉で指示されるんですか?
真木「いえ、役者に対して具体的に何かを求めたり、『こういう風に演じてください』とか注文されることはないですね。むしろ『真木さんはここ、どう思う?』とか。『これはどう演じるのがいいかな?』と相談して、一緒に作ってく監督だと思います。俳優としては嬉しいし、やっぱりやる気も出ますよね。現場の流れや雰囲気で台詞やカットを追加したり変更したりすることもあります」
──昨日までは脚本になかった台詞を、いきなり渡されたり?
真木「今回の作品ではあまりなかったのですが、『そして父になる』の時はありましたね。でも、演者もスタッフもみんなそれを楽しんでるというか……一緒に作っている感じなので、ピリついた空気は全然なくて。基本的には、ずっと穏やか。私はすごく落ち着きます」