NeoL

開く

谷川じゅんじ(JTQ) × 齋藤精一(Rhizomatiks)「MEDIA AMBITION TOKYO」対談インタビュー

mat3

――それがMEDIA AMBITION TOKYO(MAT)を始められたきっかけにも繋がったんでしょうか。

谷川「そうです。テクノロジーにおけるつくり手たちとの関係が生まれ、可能性を感じたことがやりたいと思った一番の理由です。あと、僕は海外でも仕事をするケースがあるんですが、海外では日本で作れないようなスケールのものもルールが違うので実現できることがある。それを東京で自分の周りにいるみんなに見てもらいたいというシンプルな気持ちがそもそもの種です。同時に、僕らが世界に評価されるために海外に行くことは多いけれど、世界に評価されるために日本に呼ぶという仕組みが極めて少ないとも思っていて。そこで海外メディアも含めて多くの人たちを日本に呼ぶことをできないかと考えた時に、毎年4月にミラノで開催されるミラノサローネが浮かんだんです。そこには想像できないほど多くのプレス関係者が集まるんですが、そういったことは東京では出来ないのだろうか。なにか手立てはないのだろうか。それで今から3年前に小さなスケールでMATをスタートさせたんです。

結果思った以上に手応えがあった。そこから年々規模を拡大し、今年はこうなればいいねと思い描いていた1つの形——東京全体を使ったイベントのフォーマットと言えるものが初めて形になったんだと思います。六本木ヒルズの52階にテーマ展のようなものがありつつも、周辺の様々な場所で、いろんなアーティストが領域にあったやり方で自分たちなりの発信をしている。これからはそういう人たちの活動や存在を、投資や援助してくれる領域の人たちのところにまで届かせる。かつ、青田買いまでできる会場づくりもするべきだと思っています。発信力も含め、世界と戦えるポテンシャルをもったマーケットなのだから、みんなの力で形にすることに協力してほしい。そういうことを考えていると最初に声をかけたのが齋藤さんだったんですよね」

――齋藤さんが初めてお話をお聞きになった時の感想は?

齋藤「そのお話を聞いたのは3年前ですね。既にメディア芸術祭は日本でも認知もあったし、海外からの評価が高かったんですが、やはり行政主導だと固さがある。最近のメディアアート作品は良くも悪くも文脈化されていないシームレスなものも増えたから、行政の固さでは受け入れが難しい部分もあるんです。見に来る人たちがお酒を飲んだりして楽しめる場がないのも気になっていました。これはよく日本にありがちな、すごくいい道を作ったのに、小さいトラップがあって結局ストップするというものの1つかなと。ミラノサローネのいいところは、役所みたいな固いところもフリーでお酒を振る舞って街中でパーティをやるし、便乗していろんなところが商売をするんです。家具屋がホットドッグを売るみたいな。それは本当に大事なことだと思うんですね。メディア芸術祭に来る人は数万人いるので、その時に裏チャンネルとしてMATをやって、2月の初旬もしくは中旬のあたりにその2つが中軸として東京を盛り上げていくと、他のところも色々便乗して盛り上げてくれるんじゃないかと。お話を聞いたとき、そういう全体像が谷川さんには見えていたので、僕もそういう場所があるというのはすごくいいなと。若い人たちが作品を発表する中でパーティがあるとか、いいじゃないですか」

谷川「ミラノサローネはすごくシンプルなんですよ。いろんな催事がこと細かに書かれているガイドブックが街中に配ってあるんです。メゾンの名前、展示日数、レセプションの日。グラスマークがついている日に行けば酒が飲めるし、エントランスフリーで入れるのか、インビテーションオンリーなのかもわかるんです。ミラノはブランドが来年度以降のプロトタイプを発表してたり、あるいはアーティストが自分でエキシビションやってメゾンにアイデアを売っていたりという、これからのことがわかる領域。同じ時期に、国際家具見本市がロー・フィエラミラノという巨大な展示場で開催されているんですが、そこはバイヤー向けの展示会があって、メゾンも出店しています。この2つのドメインをもって、まさに今年、そしてこれからというのものをみんなが占うという構造を時間をかけて確立されたんです。最初は家具だけだったのが、いまでは自動車、電気製品、コンピュータや通信機器など今となってはライフスタイルと呼ばれる全般に関わる巨大なイベントになった。みんながこの時期はミラノに行くんだと決めてスケジュールをずっと空けているわけです。

そうすると、ミラノなんて小さい街なので誰かに会うんですよ。ライブリーなハプニングに溢れてる。ギャザリングがあることでエキシビションも活きてくるし、海外はそういうフォーマットを作るのが上手。そういうセレンディピティな関係とか、偶発性みたいなことをもっと作っていかないと、予定調和だけでは面白いものは絶対に生まれてこない。

そういう意味では、東京にはすごくポテンシャルがある。東京のように24時間コンビニエンスで、夜通しアートイベントを盛り場でやって大丈夫な国は世界中どこにもないんです。アートな女子たちが夜中の盛り場を歩いていて何もトラブルが起きないという、そのシチュエーションはすごく特殊。そんなセキュアだったり、ピースフルな感じは日本の魅力だし、2月は和食もおいしい。春を間近に控えて気分がちょっとずつほころんでくる時に、東京をプラットフォームにして、テクノロジーカルチャー、ゲームやアート、もちろん商業も含めていろんな可能性がダイバーシティとして混在している実験的なショーケースが作れたら、充分に世界に通用するものになると思うんです。東京は街によって空気やキャラクターが全然違うので、これが全体にどんどん広がっていけば、今後すごく有力な場になる。銀座はこれから新しい施設ができるのでこういったことを積極的にやりたい人も出てくるだろうし、虎ノ門や品川の周辺も新しい街ができる。そういうところにはパブリックアートや様々な表現が出てくるはず。そういったものをたくさん見せた方がいいと思うし、体験は文脈性を伴っているので、周辺も必ず変わっていくだろうと。MATでは、みんなで知恵を絞って、そういったことを実験したいですね」

1 2 3 4

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS