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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#27 さようならで暮らす

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「さようなら」は嫌なことばかりに使うのではなく、楽しい出来事を含む全てを対象とする。アイスクリームに対しても言う。自分が好きなものに対して「さようなら」と言った時の、喪失と爽快が入り混じったような豊かな感情は特別なものだ。その感情を得たことで、ひとつの呪縛から解放され自由をひとつ得たような気がするくらいだ。ちょっと大袈裟だが、そう言いたくなるほどの何かがある。

私は、明快に、大らかな明るい気持ちで、「さようなら」を言うようにしている。そこには感謝があって、良い悪いをジャッジせずに、ただ感謝して別れを告げ手放す。これは機械的とさえ言える繰り返しだ。

劇的な効果というのはないが、日々心が軽やかになれる。鼻歌まじりで、日々を春の一日のように過ごしているような気分だ。良いこともその時に味わい尽くしたら、迷いなく、「さようなら」を告げる。なるべく終わったあと間をとらないのが良い。傷つくような悪い出来事も、怒り悲しみ尽くした後で、やはり間をおかずに「さようなら」を言う。最初はぐずぐずしたり、尾が残ったりするが、慣れると簡単に手放すことができるようになる。

要は濁った水になって腐ることを避けるために、ちいさな水たまりにならずに、外へ、次へと意識を開いていくこと。それを「さようなら」が導いてくれる。

簡単なので、ぜひ一日だけでも楽しく試してもらいたい。別れを繰り返すことは、さっぱりさせてくれる。不必要なこだわりを捨て、ちいさなバックひとつで旅するようなものだ。

この原稿を書いていると、窓からは青空と白い雲が見えている。とても美しい晴れた午後だ。

されど、さようなら、ごきげんよう。



(つづく)



※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#28」は2016年4月7日(木)アップ予定。

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