剥き出しのままの自分で挑んだ“温人”という役柄
——————中村さん演じる温人(はると)は「星ガ丘駅」の落し物係として勤務する駅員さんです。彼の最初のシーンのセリフが「はーい、どうしました?」なんですが、この声のトーンがすごく温かくて、一瞬にして魅了されるものがありました。入念に打ち合わせを重ねたり、何度も取り直したりしたシーンだったんでしょうか?
中村 「いやあ、全然。そういう意味では極力、声とかフィジカルなことは僕そのもので挑んだつもりです。演じる役によっては歩き方や声のトーンとか息の量を変えることはありますけれど、今回は“剥き出しのままいく”ことがテーマといいますか、そうじゃないと太刀打ちできない役だったので。ですから、あのシーンは何も打ち合わせとかそういったことはなかったですね。僕の人間的な温かさが滲み出たんですね、きっと(笑)」
——————本当にあったかい、素晴らしいシーンでした。他にも、子供時代の自分と今の自分とがオーバーラップするようなシーンも多く、演じていて感情の出し方が難しい場面もあったのではないかと思いますが。
中村 「“温人”という役柄自体が、どっちかというと積極的に表へ出て行くタイプではないですし、この映画もまた、語らないところで語る、みたいな性格を持っている作品です。その持ち味を大切に生かすため、過度な表現は極力しないように、そこにある“肌触り”をそっと置いていくような毎日でした。足し算でやっちゃったほうが確実に楽なのはわかってるんですが、監督のOKをもらえるのを信じて、あえて(引き算の演技を)貫きましたね」
——————ご自分の頃の子供時代を思い出すような場面はありましたか?
中村 「そうでうすね。もちろん、本作の役柄と僕の幼少期は全く異なるものの、役作りの段階って僕自身が“温人”と繋がらなくちゃいけないので、自分の幼い頃の記憶を久しぶりにこう、かき集めたというか、撮影に入る前の一か月くらいはちょっとでもヒントになるものを探す旅をずっと続けてましたね。その過程の中で想像を膨らませて自分自身の体験に近づけたといいますか」