ベルギーの美しきジャズ・シンガー、メラニー・デ・ビアシオ。その美しく深遠な世界がビリー・ホリデイやニーナ・シモンといったジャズ界の伝説を引き合いに出して語られている彼女のアルバム『No Deal』は、2013年のリリース以来、評判が評判を呼び、全世界に静かに浸透を続けている。そして、2015年、ジャズDJのジャイルズ・ピーターソン監修によるリミックス・アルバム『No Deal Remixed』(日本盤はオリジナル・アルバム『No Deal』との2枚組)でリリースされたことにより、オリジナルのリリースから3年が経過したアルバムは、ジャズのフィールドを超え、さらには世代を超えた幅広いリスナーのもとへ。彼女が描き出す漆黒のブルースは、なぜ、かくも多くの人を魅了し続けるのだろうか?
――メラニーさんの初来日は、作品デビューを果たす以前、2005年の日本国際博覧会、愛・地球博になるんですよね。
メラニー「そう。2日間だけのあっという間の滞在だったんだけどね。その後、2007年にファースト・アルバム『A Stomach Is Burning』を出してから今に至るまで、9年が経ったわけだけれど、ファースト・アルバムはジャズ・レーベルからのリリースということもあって、当時、ブリュッセルの王立音楽院を出た直後の私は、スタジオや予算、プロダクションといったことが全部お膳立てされた状況下で、音楽のことだけを考えていればよかった。出来に関しては今も気に入ってはいるけれど、次のアルバムを作るとしたら、もっと自分らしい作品にしたくて、セカンド・アルバム『No Deal』は自分でプロデュースすることに決めたの。ただ、ファースト・アルバムを出したレーベルで、セルフ・プロデュースの作品を出しても、やりたいことは理解されないだろうなとも思った。なぜなら、セカンド・アルバムは、ファーストほど、ジャジーな作品ではなく、自分にとってはブルースだったから。それも自分の内面にあるインナー・ブルース。スウィートではあるけれど、そこに確固たるものがあって、参加ミュージシャンが演奏しているのも、ジャズのコードではないという、そういう作品を自由に作るために、プロダクションをいちから学びながら、セカンドアルバムは完成までにものすごい時間がかかってしまったの」