あらゆるビジネスはデジタル・テクノロジーを導入されることによって、自動化・遠隔化・効率化され、従来よりも「便利で、高品質な」サービスを提供できるようになった。
例えば、タクシー業界に革命をもたらした「UBER」。「UBER」は2009年にスタートした専用アプリでタクシーを呼ぶ配車サービスで、「事前登録カードでの全自動決済」や「利用者による運転手の評価」のシステムの導入によって、タクシー利用の利便性と質を格段に上昇させた。
しかし一方で、デジタル・テクノロジーも万能ではない。「ビックデータ解析を信じるあまり、消費者の欲望をとらえそこなうこと」や「デジタル・テクノロジーによる効率化が対面コミュニケーションを奪い、結果的に消費行為の魅力を低下させること」など、過剰にデジタル・テクノロジーに期待しすぎると、思わぬ“落とし穴”にはまることとなる。
そんな「デジタル至上主義」の弊害に注目が集まりはじめている現在、あらゆる業界で「デジタル・テクノロジーだけでは満たされない価値」を提供するための手段として、“人の力”が見直されはじめている。
例えば、ウォークマン、着メロ、Youtube、iTunesといったデジタル・メディア/テクノロジーの変化によって最も変化を強いられてきた音楽業界。現在はApplemusicをはじめとした「定額音楽配信サービスの普及」によって、特定の音源を選んで購入することなく、PCやスマホで「気軽に音楽を楽しめる時代」が到来している。
その一方で、わざわざ会場に足を運んで、音楽を楽しむリスナーが増加している。特に動員が顕著に増えているのが“大型音楽フェス”。2014年度から2015年度の動員数の変化をみると、「SUMMER SONIC 2015」は18万2千人で1万7千人増、「FUJI ROCK FESTIVAL ’15」は11.5万人で1万3千人増、さらに2014年に日本に上陸したEDMフェス「ULTRA JAPAN」は9万人と倍増した。
デジタル・テクノロジーのおかげで「自宅にいながらに世界中の音楽を簡単に楽しめる時代」だからこそ、、アーティスト本人に直接見ることや、たくさんの人と一緒にライブで盛り上がるといった「人と関わる行為」の価値が上昇してきているといえるだろう。
次は、一時期は「デジタル教材一辺倒」の風潮があった教育業界。現在は、デジタル教材に“人の力”を取り入れるアプローチが注目されている。
例えば、ベネッセが小中高生を対象に運営する「進研ゼミ+(プラス)」。「進研ゼミ+」で勉強する生徒は普段、レベル別の“紙のテキスト”と、今の理解度や志望校に合った最適な問題や確保できる勉強時間に応じて最適なカリキュラムを提示してくれる“デジタル教材”を使って、各自学習をすすめる。そして定期的に、記述問題を手書きで丁寧に添削する“赤ペン先生”や、学習履歴を見ながらチャットや電話で成績が上がる方法を一緒に考えてくれる担任制の“赤ペンコーチ”などの「人が介在するサービス」を利用することができる。
自分1人だとサボりがちな通信教育だが、「進研ゼミ+」では、生徒が赤ペン先生や赤ペンコーチとの継続的なコミュニケーションをとることによって、勉強へのモチベーションを維持しながら学習を進められる。
まさに、デジタル技術を存分に活用しつつも、それだけではフォローしきれない部分を、人の力で補っているケースである。
最後に、映画業界。「CG」というデジタル・テクノロジーの登場以後、「ハリウッドの大作を見れば、最新のCG技術を体感できる」という時代が長く続いた。
しかし、現在のハリウッドでは、これまでデジタル・テクノロジーによって簡略化してきた作業を、あえて手のかかるアナログ技術で行うことで、CGでは生み出せない表現を追求する作品が増えている。
その代表例が、スターウォーズ・シリーズ最新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。本作では、監督のJ・J・エイブラムスの意向により、アナログ技術を大胆に採用。撮影は35ミリフィルムカメラで行い、セットやクリーチャーは可能な限りCGを使わず、職人が精巧な実物やミニチュアを製作するなど、デジタル技術のなかった1977年の第1作を徹底的に意識した映画作りだ。
しかし単純にアナログ技術に回帰したわけではない。登場するクリーチャーを最新のデジタル技術によって制御するなど、作品全体を通して「最新のデジタル技術によって、アナログの質感を活かす」試みが行われたのだ。
デジタル・テクノロジーが進歩するからこそ、各業界で見直されてきた“人”の存在。きっとこれから生まれる先進的なサービスも、「デジタル・テクノロジーと人間の絶妙なコラボレーション」によって生み出されるだろう。
SUMMER SONIC 2016
http://www.summersonic.com/2016/