愛とは人生に欠かせない要素
——本編中には最愛のお嬢様も少しだけ登場されます。そのシーンで見せるロパートキナさんの幸福感に包まれた表情がとても印象的でした。02年にご出産を経験されたことでご自分の中のバレエに対する思い、愛というものについての考え方の変化などはありましたか。
ロパートキナ 「そうですね……バレリーナが出産を経験すると生き方が変わるとか視野が広がるとかよく言われますよね。私の場合、娘が生まれた翌朝、大きな実感が訪れました。目が覚めると自分のすぐそばに小さな赤ちゃんがいる。私は彼女のことを見つめ、赤ちゃんも自分のことをじっと見つめている。その瞬間、ああ、この子の将来のためにも自分には大きな責任ができたのだという思いがこみ上げてきました。子供が生まれる前は誰かのことを気にかけることなどなかった。自分は自分、自分のことだけに責任を負えばいい、と考えていましたから。人生において責任を合わねばならない存在ができたことは私にとって大きな変化でしたね」
——なるほど。
ロパートキナ 「なにしろ子供が人生を学んでいくのと同様に、私も母親であることを常に勉強しなければいけないわけです。その過程で怖いなと感じることもありますし、母親としてきちんと育てられるのだろうかという不安に襲われることもあります。今では娘も私と同じくらいの背丈になりました。子供は子供と言っても、すでに一つの人格を持った人間に育っていますから、この先いったいどんな大人へ成長していくのか、ますます責任を感じずにいられません」
——娘さんは「バレリーナになりたい」とはおっしゃらないのですか?
ロパートキナ 「言わないですね」
——映画の中ではロパートキナさんの幼少期、よくご自宅でレコードをかけて、それに合わせてあなたが踊っていたというエピソードが出てきますが、娘さんはいかがですか?
ロパートキナ 「ええ、私がいつも自宅では音楽をかけているので、娘もクラシック音楽によく親しんで育ちました。マーシャは音楽学校でピアノを勉強しており、そこでとても良い成績を収めています」
——映画の中では「オネーギン」や「愛の伝説」について語られる場面があります。どちらも「愛」が重要なテーマの作品ですが、いま一人のバレリーナとして、そしてマリインスキーのプリンシパルとして、バレエにとって欠かせない愛という要素をどのように表現していきたいと考えますか。
ロパートキナ 「そうですね、バレエには愛をテーマにした演目が数多く、特にクラシック・バレエはそうです。もちろんとても深いテーマだと思いますし、人生にとって愛という要素は欠かせないもの。お客さんが劇場を訪れ、いざバレエの幕が上がった時、これから繰り広げられるものに何を期待するのでしょうか。スポーツなのか、劇的なものなのか、ハプニングなのか。いろんなことを期待していると思うのですが、その中でもやはり愛というものが持つ秘密や謎といいますか、そういったものにお客さんは大きな期待を寄せるのだと思います。
ですから、一つの作品の中で男女が結ばれるとしても、愛の雰囲気がしっかりと作品全体に行き渡っていなければ観ている方々には決してご満足いただけない。お客さんはいつもと同じように拍手してくださるかもしれませんが、それはきっと空虚な拍手となるでしょう。深い意味で、私はバレエというアートを使って、愛を表現することに自分の課題を見出しています。それは、愛は人生の意味だと信じており、人間の生きていく上での課題は、愛することを学ぶということだと思うからです」
撮影 吉場正和/photo Masakazu Yoshiba
取材・文 牛津厚信/interview & text Atsunobu Usizu
企画・編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara
『ロパートキナ 孤高の白鳥』
2016年1月30日(土)渋谷Bunkamuraル・
世界最高峰のバレエ団マリインスキー・バレエ。
<映画で見られる演目の数々>
愛の伝説、マルグリットとアルマン、レ・シルフィード、
◆PROFILE
ウリヤーナ・ヴァチェスラヴォヴナ・ロパートキナ
1973年10月23日ウクライナのケルチ生まれ。
<ロパートキナの受賞歴>
ワガノワ国際バレエコンクール第1位(サンクトペテルブルク、
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◆監督:マレーネ・イヨネスコ(『至高のエトワール~パリ・
◆出演:ウリヤーナ・ロパートキナ、アニエス・ルテステュ、
配給:ショウゲート
Lopatkina-movie.jp
(C)DELANGE PRODUCTION