―今、「覚悟はしてた」とありましたけど、こうした作品を出すことについて最初は戸惑いもあったのでしょうか?
ジェームス「もちろん、それを覚悟の上で挑戦してるんだ。政治的なメッセージを、上から目線や自分達の価値観を押し付ける形でなく伝えていきたかったから。政治的なメッセージを伝えること以外にも、今のイギリス社会の現実をありのままに映し出すことだったり、自分達の人生の目的だったり野望だったり、家族や親しい人達への想いだったり、思春期から大人になるにつれて直面する数々の場面を取り上げているという。自分達とかそれよりも少し下の世代がこれから直面するであろう人生の大きなテーマについてね」
―“A Different Kind Of Struggle”というタイトルの曲が目を引きますが、これも具体的な出来事をイメージして生まれた曲なんでしょうか?
ジェームス「あの曲がこのアルバムの中でおそらく最も政治的な曲なんだけど、社会に失望したイギリスの若者の姿を映し出していて、アルバムを象徴する曲でもあるんだ。すべてはこの曲から始まったというか、この曲によって今回のアルバムは政治的な内容になるってことが決定づけられたんだ。曲の中で伝えているメッセージもアルバム全体のメッセージを象徴してるんだ」
―そうしたコンセプトやメッセージ性がサウンド作りにも影響を与えた部分はありますか?
ジェームス「そうだね、今回アルバムを作るにあたって色んな人にインタビューしてるんだけど、それがアルバムのサウンドだとか、アルバム全体の流れだとかストーリーと連動してて。音を作りながら一方でインタビューして、そこで受けた影響なり感覚をまた音に反映させてっていう作業を重ねながら作ってるんだ」
エイダン「ジェームスがインタビューした内容をもとに自分が音楽を作ってた時期もあったしね。ジェームスがインタビューを通して伝えようとしたことをもとに自分が音楽を作ったりもしてるしね」
―アルバムでは実際に会話を録音したモノローグが多く使用されていますが、その際に誰のモノローグを使うか、あるいはどの部分を使うか、という点で意識したようなことはありますか?
ジェームス「最初はとりあえず、ウエスト・ヨークシャー(※ハダースフィールドが位置する都市州)のありのままの現実をフィルターをかけずに表現するってことを意識してたんだ。そのためには良い面も悪い面もひっくるめてウエスト・ヨークシャーという土地について、政治的、社会的、さらにはストーリーという観点から映し出した上で、そこからさらに深く掘り下げて、そこで生活している人が幸せなのかあるいは不満を抱いてるのかについて描き出していってるんだ。最初から最後まで大まかな流れみたいなものを作っておいて、アルバムの最初のほうでウエスト・ヨークシャーの土地柄なり特徴なり地理的な基本情報なんかを紹介しておいて、そこから実際にそこで暮らす人々がその土地に対してどのような希望や不安を抱いているかを描いていき、それでも最終的にウエスト・ヨークシャーという街に住み続ける理由について説明するような流れになってる。だから、一つの見方や結論からじゃなくて、様々な角度からウエスト・ヨークシャーという街の現実を映し出してるんだよ」
―膨大な量のインタビューをしていく中で、若者達の発言でショックを受けたり、発見があったようなことはありましたか?
ジェームス「若い子達と話してて、この齢でこんなに深いところまで見てるんだってことにものすごい感動したことがあったよ。実際、インタビューしてても楽しかったし、それがきっかけで親しくなった人達とかもいるからね。同じストーリーでも角度を変えるとこんなに違った側面があるんだっていうことに感動したよ。ただ、驚きはなかったというか、自分ももともとウエスト・ヨークシャー周辺の出身なんで。あの土地で生まれ育って生活していく感覚についてある程度理解してるつもりだから。たしかに素晴らしい土地ではあるけど、可能性が圧倒的に少ないってことはあるよね。遊びに行く場所にしたって圧倒的に限られてるし、ただ淡々と変わらない日常が続いていくだけなんだ。それで自分も18歳のときに音楽がやりたくてロンドンに出てきたんだし。イギリス若者はどうしても都会に目が向きがちだよね。だからこそ、ウエスト・ヨークシャーという土地にあえて焦点を当てたかったんだ。自分達にとって意味があると同時に、大都市でなくても特別な場所なんだってことを示したかったからなんだ」