──それはどういう?
行定「ここ数年アジカンの楽曲を聴いていると、いい意味で重みが増してきた感じがするんですよね。構造的にはシンプルだけど、心に深く刻まれる音楽。そういう成長というか成熟を、個人的には強く感じてきました。ただ、さっきも話したように、その感じがこの映画が求めている終わり方と合うかどうかは、また別の話なので…」
後藤「はははは。よくわかります、その葛藤(笑)」
行定「かといって、初期のアジカンの楽曲をラッシュの映像に当ててみても、それはそれで何かが違うんですよね(笑)。で、迷いに迷った結果、こういうのは結局キャスティングと同じなんだと。役者のキャスティングというのは一種の賭けなので、もちろん読みが外れることだってある。でも監督として一番幸せなのは、そういう制作側の見込みとか経験値をはるかに凌駕して、役者さんがその映画を、当初イメージしていたよりずっと遠くへ連れていってくれる瞬間なんですよ。主題歌もきっと、それと同じじゃないかと」
──監督からバンドへは、具体的にどんな発注があったのですか?
後藤「何だろう……シンプルにたった3文字、墨汁で『疾走感』と書いた紙をもらった、みたいな? 感覚的にはそんなオファーでしたよね(笑)」
行定「打ち合わせとかも特になかったしね(笑)。僕の中にあった『疾走感』というキーワードをお伝えして、あとは丸投げ」
──デモを作るにあたって、2人の役割分担は?
山田「まず僕が、イントロから前半部にかけてベーシックな部分を作って。そこにゴッチがブリッジ(展開部)と大サビを付けてくれました。『疾走感』というのは、けっこう難しいリクエストで…。単純にBPM(Beats Per Minute:テンポ)を上げても出せない。でも行定さんが仰ったように、もし仮に10年前にやってた感じを意図的になぞったとしても、それはそれでチープになっちゃうのが目に見えているし…」
後藤「そうなんだよね。青春の真っ直中でもないのに、青春っぽい曲を書くと。ハリボテ感が半端ない(笑)」
山田「あとさっきも話に出ましたけど、劇中で中島(裕翔)さんと菅田(将暉)さんが、2人で『ファレノプシス』という楽曲を歌うところがあるじゃないですか。高校時代、自分たちで初めて作ったオリジナル曲として。すごくイノセントで好きなシーンで。楽曲としても素敵だったので。そのプレッシャーもあった(笑)」
行定「ははは」