シャッター音に込められた意味
――デニスが放つシャッター音に心奪われました。ディーンが感傷的になっている場面でも構わず「カシャッ」という音が非常にリアルに響き渡りますよね。どこか無慈悲に思える音だけれど、写真家と被写体の信頼関係の証でもあるような、コービン監督だからこそ描くことのできた大事なポイントのように感じられます。
コービン「それは非常に面白い指摘だね。確かにシャッターを押す瞬間というのは、ここまでがプライベートで、ここからはそうではなくなるという境界、あるいは句読点のような意味合いが少なからずあると思う。だからこそ、とても繊細で、脆く、一つ踏み間違えるとその関係性を全て壊してしまうことにもなりかねない。
とはいえ、その突きくずした瞬間こそがフィルムに刻むべき貴重な一枚となる可能性だって大きいわけで、僕らフォトグラファーはそう言ったリスクと可能性を常に両天秤にかけながら葛藤し続ける存在と言えるだろうね。シャッター音はまさにその象徴みたいなものだ」
映画作りは、自分探しの旅のようなもの
――実は、今回の取材に備えて『アントン・コービン 伝説のフォトグラファーの光と影』というドキュメンタリーを観たんです。
コービン「そうかい(笑)」
――その中で、U2のボノが「アーティストたちは皆、アントン・コービンが撮ってくれた自分の写真を見て、初めて『ああ、こういう自分になりたい』と感じるんだ」と語っていました。その意味で言うと、今回の映画にもデイン・デハーンやロバート・パティンソンのこれまでにない素晴らしい瞬間が濃厚なまでに収められていたと思うんです。被写体へのアプローチの仕方において、写真と映画とでは何か共通する側面があるのでしょうか。
コービン「私に言わせれば、フォトグラファーと映画監督は全く異なるものだね。フォトグラファーは単一的な存在で、個人でも成立するものだと思う。被写体との関係で言えば、スチールに写し出されるのは『“私が”被写体について発見し、獲得したもの』ということになる。
でも、映画監督の仕事ではまずチームとして物を見つめ、考える。着想の段階でごく個人的な“想い”や“発想”がきっかけとなることもあるかもしれないが、それを作品として織り成す上ではもっともっと多くの人が関わってアイディアを具体的に練り上げねばならないわけだ。
映画作りを監督の直感のみに委ねるのは極めて危険なこと。しかしカメラの場合には、それが許される。個人的な芸術だからね。どうやって作り出すか、つまりHOWの面で、両者は大きく異なってくるものだと思うよ」
――なるほど。
コービン「正直言うと、私がいちばん愛情を注いでいるのは写真なんだ。その一方、冒険心を掻き立てられるのは?と問われれば、私はむしろ映画の方を選ぶ。自分を深い穴から連れ出し、これまで知らなかった世界や自分自身をどんどん発見させてくれるからね。
こう見えて私は、写真を始めた頃、とても内向的な性格だったんだよ。でもひとたび映画の仕事を始めると、ここではシャイであることが絶対に許されないのだと気がついた。自分の意見や考えをどんどん他人と交換し、発信していかなきゃ何も始まらない。それが映画作りだ。
そんなわけで、自分の中の外交的な部分を掻き出して、必死になんとか頑張ってるよ。おかげで随分と変わることができた。これはいわゆる、自分探しの旅のようなものだよね」
撮影 中野修也/photo Shuya Nakano
取材・文 牛津厚信/interview & text Atsunobu Ushizu
企画・編集 桑原亮子/direction & edit Ryoko Kuwahara
『ディーン、君がいた瞬間(とき)』
2015年12月19日(土)シネスイッチ銀座他 全国順次公開
監督:アントン・コービン『コントロール』
出演:デイン・デハーン『スパイダーマン2』、ロバート・パティンソン『トワイライト』シリーズ、ジョエル・エドガートン、ベン・キングズレー、アレッサンドラ・マストロナルディ
<STORY>
1955年、アメリカ。マグナム・フォトに所属する、野心溢れる若手写真家デニス・ストックはもっと世界を驚嘆させる写真を撮らなければと焦っていた。無名の新人俳優ジェームズ・ディーンとパーティで出会ったストックは、彼がスターになることを確信し、LIFE誌に掲載するための密着撮影を持ち掛ける。ディーンを追いかけ、LA、NY、そして彼の故郷のインディアナまで旅するストック。初めは心が通じ合わなかった二人だが、次第に互いの才能に刺激されていく。そして彼らの運命だけでなく時代まで変える写真が、思わぬ形で誕生するのだが──。
原題:LIFE/2015年/カナダ・ドイツ・オーストラリア合作/112分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
配給:ギャガ
公式HP: http://dean.gaga.ne.jp
Photo Credit:Caitlin Cronenberg, (C)See-Saw Films