役者魂をまざまざと見せつけられた
――ジェームズ・ディーンを演じること、これは俳優にとって想像を絶するプレッシャーだと思います。ディーン役のデイン・デハーンの苦悩を感じ取る瞬間はありましたか?
コービン「そうだね、デイン・デハーンは今回、ものすごいプレッシャーを感じていたはずだよ。その証拠に、キャスティングの過程で私がいくら連絡を取ろうとしても、彼は一向に会ってくれなかったんだ。彼にとってディーンはとてつもないヒーローであり、だからこそ演じるなんて恐れ多いというのが率直な本音だったようだ。
けれど、それはあくまで撮影前の話。いったん『やる』と決まってからは、今度はもう、デインの役者魂をまざまざと見せつけられたよ。役作りに関しても一切の妥協がない。撮影の4か月前には、ある程度のジェームズ・ディーン像が出来上がっていたからね。それから声のトーンや喋り方に関しては専門のコーチがついたし、特殊メイクやディーン特有のファッションといったコスチューム的な部分も“成り切る”ための大きな助けになったようだ。
ただ、撮影現場で彼がモニターを見ることは一切なかった。おそらく、自分がディーン役をやってることをモニター越しに客観視するのを避けていたんだろうね」
フォトグラファーとしての自分と重なる
――本作ではジェームズ・ディーンと共に並走する写真家デニス・ストックの心象模様もリアルに伝わってきます。彼の肖像を描くにあたり、フォトグラファーとしてのご自分のキャリアと通底する部分はありましたか?
コービン「セレブ狙いのデニス・ストックと違って、私はもともとポートレート専門のフォトグラファーだったから、胸に秘めた野望も彼ほどは大きくなかったと思うよ。
でもね、そんな自分にも、この映画と似たような経験が少なからずあったんだ。若かりし頃、私はもっと熱烈な気持ちで人を追いかけていた。オランダ最高のロック・スター、ハーマン・ブルードに『撮らせてくれ!』って懇願したりしてね。
それから私がイングランドに渡ったのは、ジョイ・ディヴィジョンの音楽がきっかけだった。あの素晴らしい音楽が生まれる、その最も近いところにまで迫ってみたくてね。その観点で言うと、『ディーン』における被写体とフォトグラファーの関係性は、私にとって決して他人事ではないレベルのものだ。
例えば、デニスがジェームズ・ディーンに『君の写真を撮らせてくれ』と頼み込むシーンがあるよね。ディーンは『わかった、わかった。君を助けてやるよ。写真を撮っていいよ』と言うんだが、その言葉を受けてデニスは『いや、待ってくれ。むしろ“俺が”(写真を撮ることによって)君を有名にして助けてあげるんだよ』と返す。些細なシーンに思えるかもしれないが、ああいった場面は私にとって生々しく、非常に共感できるものなんだ」