ーークリステンとクロエの起用について教えて下さい。
アサイヤス監督「クリステンは確かに『トワイライト』の成功とメディアによって有名になりましたが、ユニークな存在感のある稀有な女優だと思っていました。ショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』の時から、端役でしたが存在感を示していました。彼女はとてもカメラ映りが良い、アメリカ映画の女優としては稀有な存在です。ハリウッドの大作に出ている彼女にとって、ヨーロッパのインディペンデント映画はリスクかもしれないけれど、かわりに、私は彼女にはこれまでの映画では与えられなかったものを与えてあげられるのではないかと思いました。人工的に作り出された役柄ではなく、彼女自身のインプロビゼーションができる十分な時間を与えたのです。それは人工的に作り出された登場人物とは違うものとなり、今回の私の演出によって彼女のキャリアのある一時期に発見があり、自分が想像しているよりももっと長く女優としてのキャリアを伸ばしていけるのではないかと思います。クロエに関しては、当初成熟した大人な若い女性を探していたのですが、何よりも彼女には狡猾さがありました。役より実年齢がかなり若かったのですが、彼女に会って決めました。結果的にはそれぞれの役で最初に選択した二人が出演してくれて、(キャスティングは)大成功したと思います」
ーー現場でのジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワートのコミュニケーションはどのような感じでしたか?
アサイヤス監督「彼女たちはそれまで全く会ったこともなかったのですが、撮影を重ねるにつれて、彼女たちの間に徐々に信頼や友情や敬愛の気持ちが芽生えていったようです。もともとクリステンはジュリエットの生き方や仕事ぶりを見ていてリスペクトしていたそうです。ジュリエットとクリステンの関係がうまくいくことがこの作品にとって重要なポイントでしたから、準備の段階では『私は危険を冒しているのではないか?』と不安になっていました。もしも気が合わずに二人の間に緊張が漂ったら良い映画にはならなくなるからです。実際には全くそんなことはなかったのですが。クリステンにとってジュリエットは、自由と精神のバランスを保ち続けてきた女優であり、そのメカニズムとキャリアの道程を学びたいと思っていたようです。かたやジュリエットがクリステンの中に見たものは、若いけど映画に対する情熱。お互いに刺激しあい、いい意味での競争心がありました。私はそんな二人を観察し、二人の関係が進展するのをドキュメンタリーのように撮影しただけです。脚本を書いた時と違うものになったのは彼女たち自身の演技と力動性のおかげです」