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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#17 言葉

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多くの人は、自分の口癖を意外と知っている。
指摘されて初めて気づくこともあるが、口癖の多くは、その人の内面だけでなく、外見や、健康状態までをも映している。なので、それについてじっくり見直すのは、自己確認、そしてヒーリングになると思う。
数年前までの自分の口癖は、「でも」だった。人との会話の中で、頻出していたのに気づいていたが、特に気にもせずに使い続けていた。相手の意見のあとで、さて次は自分の番だとなった時、まずは「でも」から入っていた。あたかも接頭語のようにである。
言うまでもないが、「でも」は、軽い否定語だ。会話の中で使えば、相手の意見をまずは否定することから自分の意見が始めることにある。
ある日、これはいけないのではないか、と私は気づいた。「でも、でも、でも」と言っているうちは、幸せにはなれないと突然ひらめいて、以後はなるべく使わないようにした。
「でも」を言うとき、心と体が必ず緊張する。僅かかもしれないが、必ず緊張するはずだ。この時の緊張は、大袈裟に言えば、臨戦態勢である。動物が敵を目の前にして心身をキュッと緊張させ、攻撃か撤退かを判断する時のような緊張状態が、否定語によって生まれている。おそらく表情や声も、乾いたつまらないものになっているだろう。
たかが一語と自分でも思うが、この微かな緊張が日々積み重ねられて行くこと、それが心身に与える悪影響を思えば、たかがとばかりも言ってられない。
すでに、「でも」などの否定語が意味もないままに、ただの接続詞的に、用いられていることも多い。そういう場合は特に気にする必要がないかと言えば、そうでもない。
なぜかと言えば、言葉には、それぞれに色や力があるからだ。言霊という概念は日本人にとって理解しやすいと思う。何も祈る言葉だけでなく、私達が普通に使っているそれぞれの言葉にさえ、言霊がある。
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