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ハナエ『上京証拠』インタビュー

──たしかに『上京証拠』というアルバムには、作り込まれたポップ・アーティストとしての楽しさと、21歳の女性が抱えた等身大のエモーションとが絶妙に混じりあってる感触があって。そこもまた魅力的だったりしました。でもそれは、ディスカッションして作り上げたものじゃなくて……。 

ハナエ「あくまで真部さんが感じ、汲みとってくださったハナエ、なんですね。ただ、直接的には会話していなくても、1つひとつのフレーズに自分を重ね合わせられた部分はすごく多かった。もしかしたら普段のちょっとした世間話だったり、あとTwitterやブログで私が書いてることから、いろいろ拾ってくれたんじゃないかな。ネタ元は怖くて、まだ聞けてないんですけれど(笑)」

──ははは、なるほど。そういうプロデューサーとアーティストの緊張関係って、SNS時代ならではで興味深いですね。

ハナエ「だと思います。他の方のフィルターを通じて自分の心情を歌える経験って、なかなかできないし。おかげで一歩引いたところから自分自身を見つめられたのも面白かった。たとえばこの作品には、かわいくてキラキラした世界が大好きな私と、内気でコミュニケーションも苦手でダークな私とが、両方いる気がするんですね。かなり両極端だけど、どっちもいてこそのハナエ。そういうことも今回レコーディングしてみて再認識できました」

──そう考えると、アルバムのトーンと「檻」のアートワークとがよりシンクロしているように思えてきます。

ハナエ「自分を見つめるっていう意味ではそうかもしれませんね。檻って普通、束縛とか不自由さとか、ネガティブなイメージがあると思うんですよ。このアルバムには、そういった束縛から早く脱出してキラキラした世界に飛び出したいという女の子の気持ちもたくさん詰まっている。1曲目の『EXODUS』なんて、まさにそんな感じです。でも一方では、そういう堅い鉄格子に守られてる自分もいるというか……表現すべき核があるような気もして」

──ラップで歌われたエンディング曲の「S-T-A-R-S」には、まさに自分という檻にぶつかり成長していく痛みが、生々しく描かれています。いわばアルバムの最初と最後に、外に向かって解放されていくハナエさんと、ヘヴィーな内面と向き合ってるハナエさんとが両方立っているような感覚。

ハナエ「たぶん私が目指している美しいもの、キラキラした世界には、そういうダークさや醜いさが絶対必要なんだと思う。矛盾するものが違和感なく共存してる世界を創りたいっていうのかな。檻のアートワークには、そういう気持ちも込められています」

──1曲目の「EXODUS」は心が浮き立つ、まさに真部さんらしいテクノポップ・チューンですが、もともとは旧約聖書に出てくる「出エジプト」という意味で。民族の存亡を賭けた脱出を意味する言葉に、福岡から上京するハナエさんの心情を重ねている。〈♪一発当てないと 出発できないよ〉というフレーズの軽やかさがとても印象的でした。

ハナエ「上京ソングというと切ないものが多いですけど、ここまでウキウキしたものはめずらしいですよね(笑)。実は私と真部さんはどちらも福岡出身で。音楽のために上京してきたという共通点があるんです。初対面のときって、まずは『出身どこ?』みたいな話から始まるじゃないですか。で、私、福岡時代にはほとんど楽しい思い出がなかったんですね。だから上京したときは、『やったー、東京だー! いぇーい』みたいな感じだったと。たしか昔、真部さんにもそんな話をしたことがあって」

──それがああいうカタチで曲になったと。

ハナエ「もしかしたら真部さんご自身の思い出も、微妙に入ってるのかな(笑)。このアルバムで一番最初にできた『S-T-A-R-S』もやっぱり、福岡で生まれ育ち、上京してこの街で生きてる21歳の私をすべてぶち込んだ曲ですし……コインの裏表っていうか、実は同じことを歌ってる気がする。その意味では2人が同郷だったというのは、大きなめぐり合わせだったなぁと」

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