──スチュワートの映画はいかがでしたか。
ボビー「ぼくは出演もしているからね(笑)。だから制作の過程も横で見ていたんだけれど、完成試写を見てすごいことを成し遂げたんだなと思ったよ。だって、スチュワートが自腹を切って制作したようなものだからね。よく、がんばったなという気持ちでいっぱいになったよ」
サラ「さらに驚くのはサントラに入れる多くの曲も作って、ヴォーカルのキャスティングも決めてということをすべてスチュワートひとりがやったということ。大きなプロジェクトを背負い込むことを彼は全然怖気づかないの。すごく野心的な人だと思うし。なによりも映画を完成させたということがいちばん感心するわ」
──ふたりから見て、映画が新作になにかしらの影響が与えていると感じますか。
サラ「あれだけ映画に労力を割いた後だから、バンドの活動に戻ってスチュワートはすごく安堵したと思うの。もちろんバンドも大変なんだけれど、映画の制作に必要な時間と苦労に比べたら、慣れていることもあるから彼にとってバンドを動かすということはそんなに大変なことじゃないって、すごく感じていたんじゃないかしら。もちろん、お金さえあればどんな大作だって作ることができる。でも、そうじゃないのよね。彼のように低予算だとその分の苦労もあるわけだし。バンドは自分の思いひとつで能率的に機能させることはできるので、バンドに戻ってきて彼がほっとしている様子というのは私たちも見ていてわかったわ(笑)。」
ボビー「ダム・ダム・ガールズのディー・ディー・ペニーの参加は明らかに映画の影響と言えるね。彼女、実は映画の主役オーディションに受けに来ていて、主役という感じじゃないということで彼女の希望は叶わなかったんだ。年齢が行き過ぎていたというのは冗談だけれど(笑)。でも、スチュワートが彼女のことをすごく気に入ったみたいで、彼女に歌わせたいということで曲を書いたんだ。確かに、それは映画の影響だと言えるかもね」
──では、スチュワートが映画から解放された安堵感が新作のダンサンブルなテイストにつながったのでしょうか。
サラ「スチュワートの頭の中に構想が生まれた時から実際に完成するまで10年間くらいかかっていることを考えると、今回のレコーディングはこれまでよりも比較的にスムーズに終わったと言えるかしらね(笑)。その勢いというのもサウンドに反映されているんじゃないかな。まあ、来年で20周年を迎えるバンドのキャリアがあるから可能だったし、ある程度は確立されているバンドだからというのもあるし。それにレコードを作れば、こうして日本でもリリースされて呼んでもらえるというサイクルが当たり前だと思っていたのがそうじゃないっていうことをスチュワートは思い知ったんじゃないかしら(笑)。特にインディーズの映画だったから一生懸命作っても、その後の展開がまったく見えないという状態を味わったので、自分が音楽の世界で置かれている立場の有り難みも感じていたみたいだし。レコード会社をはじめとする、まわりの人たちが助けてくれて、今のバンドがあるんだなということを、ね。映画って作って、配給に乗せれば普通に英米で公開されるものだって彼は思っていたみたい。そうは問屋が卸さないということを知って、あからさまにショックを受けていたのを私たちも見ていたので、バンドが今まで培ってきたものの大きさとか、それがゆえに得ている今の環境とかに対する感謝の気持ちがアルバムにはあると言えるんじゃないかしら」
ボビー「音楽の世界では当たり前だと思っていることが映画の世界ではそうじゃないってことがわかって、今まで20年近く音楽をやってきたからこその今の自分を見つめ直すきかっけにもなったと思うよ。というか、音楽の世界ではまわりにやってくれる人がいっぱいいるということもわかったんじゃないかな(笑)」