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セイント・ヴィンセント『セイント・ヴィンセント』インタビュー

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―今回のアルバムについて、自分の中で一番誇りに感じているところは?

セイント・ヴィンセント「そうだなあ……やっぱり、楽曲の力ってことに尽きるのかな。何だろう……曲によっては、自分の感情がそのまんまの形で表現されてるのもあるし。そこはすごく誇りに思ってる」

―先日のグラミー授賞式でベックが年間最優秀アルバムを受賞した際に、プレゼンターを務めたプリンスが話していましたよね。「アルバムって覚えてる? アルバムって大事だよね」って。ダウンロードやストリーミングが普及し、楽曲単位で音楽が聴かれるような状況の今、アルバムというフォーマットやパッケージを通じて音楽を届けることについて、何か意識されたり大事にされたりしていることはありますか?

セイント・ヴィンセント「そうね、変化してることは実感しているけど、きっといつの時代も常に変化し続けてきたんじゃないかな。それこそレコードのシングル盤に始まり、A面20分B面20分のLP盤の登場によって、40分間のアルバムっていう形が音楽作品の定型になったわけだけど、それだって今では廃れてしまってるわけだし。その前にCDが登場したことで、作品の長さが40分から75分に延長されて、多くのアーティストが75分の枠を目一杯埋めてきたよね。そうやってテクノロジーの進化と共に、アートの形態も変化し続けてるものだと思うんだ」

―アルバムというフォーマットやパッケージに対する思い入れはありますか?

セイント・ヴィンセント「そうね、個人的にはアナログが好きで、家ではずっとレコードばかり聴いてる。落ち着いて集中できるというか、35分から45分間の長さが自分にとってはちょうどいいんだよね。ただ、何だろう……それが絶対って思ってるわけでもないし、アナログが一番って思ってるわけでもないの」

―そうして音楽の聴き方が変わることで、音楽自体も変わっていくものだと思いますか? たとえばネットでの短時間の聴取を意識して、曲の展開を圧縮したりサビの位置を変えたり、みたいな。

セイント・ヴィンセント「それぞれの音楽に役割があって、その役割に添って曲の形ができていくんじゃないかな……だから、サビを入れるなら、やっぱりその曲のストーリーに添った場面で入れ込んでいくべきだと思うし。たしかに音楽を作る上で、ある種のテンプレートみたいものがあって、それに添って曲を書く方法もあるってことも知っている。実際、そうしたルールを知っておくのも楽しいと思うのね。ルールを知ることで、ルールを壊していく楽しみが生まれるわけだから。わたし自身は、今って音楽を作る上ですごく面白い時代になってる気がしてて……だから音楽の未来に対しても、そんなに悲観的ではないのね」

―なるほど。一方で、今回のアルバムはライヴ・パフォーマンスも魅力ですよね。なかでも“Rattle Snake”や“Huey Newton”でのあなたの振り付けというかポージングが面白くて。あれを見て、以前にベックが「ぎくしゃくしてたほうが、よりファンキーに見える。身体を硬くして、できるだけぎこちなく踊る。それがファンキーに踊るコツなんだよ」と話していたのを思い出したのですが。

セイント・ヴィンセント「まあ、理由の一つには、普通に踊ってたら自然にああなっちゃっただけなんだけど(笑)、わざとギクシャクした動きを狙ってたわけじゃないのよ(笑)。あとアニー・ビー・パーソンっていう天才的なコレオグラファーに振り付けしてもらってるんだけど、彼女は前回のデヴィッド・バーンと共演したアルバム『Love This Giant』 のツアーの演出も担当してくれていて。彼女もわたしと同じでまったくの素人からプロになった人で、(ミハイル・ニコラエヴィチ・)バリシニコフみたいなダンサーとも共演してるのよ」

―今回のアルバムのコンセプトは“葬式でかけても踊りたくなるようなレコード”だったそうですが、そもそも“踊る”ってことにフォーカスを当てたきっかけは何だったんですか?

セイント・ヴィンセント「デヴィッド・バーンとツアーしてるときに、お客さんが立ち上がって踊るのを見て、すごくいいなって思ったんだよね……目の前でマジックが起こるのを目撃してるような、奇跡的瞬間に立ち会ってるみたいな気持ちになって。それで実際にお客さんを動かす、身体を動かすってことに興味が湧いたんだよね」

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