——米咲ちゃんは音楽一家で、おじいさんもお父さんも作曲家なんです。
Salyu「そうなんだ!」
津野「お父さんはアニメや戦隊モノの主題歌を書いたり。『悪魔くん』とか」
Salyu「あ、『悪魔くん』の歌覚えてる。そうか、おじいちゃんもお父さんも大衆に向けた音楽を作ってたんですね」
津野「でも、お父さんはクラシックやジャズにも精通していて」
Salyu「なるほど。全部知ったうえでそういうお仕事をされてたんですね」
津野「子どもに積極的に上質な音楽を伝えようとする人で。そういうところがすごく好きでしたね。子どもを一切なめてないというか」
Salyu「すばらしい大先輩がご家族にいたんですね」
津野「いろんな音楽を聴かせてもらいました。私は小さいころから音楽を聴くのが好きで好きで仕方がなくて。クラシックもポップスも片っ端からいろんなCDを聴いて、鼻歌でうたって、鍵盤を弾いて。そこに自分が参加できないのが幼心に悔しくて。CDの音量と自分が弾く鍵盤の音量が合わないことに『イーッ!』ってなって、それからEQというものを覚えました。そうやって学校の友だちとはどんどん違う世界に行って(笑)」
——アカデミックに音楽を学ぶ選択肢もあったと思うけど、そうはしなかったんだよね。
津野「そう。練習が嫌いなので(笑)。バンドを始めてから練習が好きになりましたね」
Salyu「バンドはひとりじゃないからやるしかないもんね」
津野「そう。連帯責任なので。これからちゃんと音楽を学びたいとも思ってるんですけどね。私は曲を書くときに全然迷わないんですね。メロディありきで作っていくんですけど、私の手癖自体がちょっと複雑怪奇だから。だから、たとえばコード進行やリズム、キーの基本構造みたいなものを一度ちゃんと勉強したいなって最近よく思うんです。ホントにボーカルに優しくないキーで曲を作ってるので(笑)。最新アルバム(『猛烈リトミック』)でようやくキーのことを考え始めたんです。今まではボーカルのキーというものがよくわからなくて。でも、私がそれをちゃんと考えるようになってからボーカルもすごく楽しく歌ってくれるようになったので。そういう気づきを得ている最中ですね」
Salyu「津野さんはいろんなアーティストに楽曲提供もしてるじゃない? バンドの曲のときと感覚の違いってあるんですか?」
津野「一貫してあるのは、自分が書いた曲を歌ってくれる人が喜んでくれるのが、私にとっての最大の喜びで。それはメンバーでも楽曲提供でも同じですね。メンバーはレーベルの人間でも事務所の人間でもないし、音楽を熱心に勉強してる人でもない。ただ素直に自分がいいと思うものを『いい』と言える人たちで。“よくできている”という言葉を知らない人たちというか。だから、私はメンバーが素直に喜ぶことができる曲を書こうといつも思ってます。楽曲提供もそうで。提供するときにそのアーティストのことをすごく調べるんです。調べ上げてからその人の大ファンになる。で、私だったらこういう曲を歌ってほしいというものを書くんです。だから、コンペに出した曲はその人アーティストを想定して書いた曲だから、採用されなかったら絶対にほかで流用できないんですよね」
Salyu「なるほど。おもしろい感覚ですね」
津野「そういう気持ちで作るほうがいいというよりも、そういう気持ちじゃないと作れないんですよね。何も浮かばない。ドレミさえも浮かばないです。だから、私は歌ってくれる人がいないと曲を書けないんです」
——SMAPの「Joy!」なんてまさに米咲ちゃんのSMAP愛の塊みたいな曲だもんね。
津野「そうですね。『歌ってくれ〜!』って思いを込めて書いたら実際に歌ってもらえて。あの曲は私たちみたいに22(歳)そこらの女の子のバンドが歌っても意味がなくて。赤い公園でやっても『若すぎる』って言われちゃうと思う。SMAPに歌ってもらうからこそ意味のある曲なんですよ。SMAPが歌うことで救える人間もいる。そういうことを思いながら歌詞を書くのは楽しいですね」
——Salyuさんに楽曲提供するならどういう曲を作りたいですか?
津野「まず正座して小林武史さんの写真をしばらく見つめてから、写真を懐にしまって、マイナスイオンをたくさん浴びられる森に2日間くらい行きたいです」
——何を言ってるんですか。
Salyu「あははははは!」
津野「いや、でもそれくらい神聖な気持ちで臨まないと!」
——聴いてみたいですね。
津野「でも、こうやって自分が心から敬愛してる方にお会いできるところまでこれたのはそれも絶対に縁じゃないですか」
Salyu「そう思う」
津野「自分ががんばってきたところにこういううれしい縁がついてくることで、この先また1年がんばれる活力になるので」
Salyu「私も経験として津野さんが書いた曲を歌ってみたいと思うし、お互いいいタイミングがあるならぜひご一緒できたらうれしいなって思います」
津野「こちらこそです! きっと自分が思ってる音楽への誠実さを貫いてがんばっていたらそのタイミングがくる気がします」
Salyu「今日話していても、年齢差なんて関係ないなって思うよね。こうやってお話するだけでも刺激をもらえたから。ホントにいろんな言葉をもらえてうれしいです」
津野「Salyuさんにはとにかくずっとずっと楽しく歌をうたい続けてほしいです。ずっと聴いてます」
Salyu「ありがとう。実際に出会う前からここまで私の歌を理解してくださるアーティストがいたんだって感動しました。津野さんもそのまま音楽を楽しんで輝き続けてください。ぜひいつか制作をご一緒できたら」
津野「はい! 今日はすごくありがとうございました!」
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Salyu
2000年、Lily Chou-Chouとして2枚のシングルと1枚のアルバムをリリースする。2004年、小林武史プロデュースのもとSalyuとしてデビュー。以降17枚のシングル、4枚のアルバム、1枚のベストアルバムをリリース。2011年には、「salyu × salyu」として小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を発表し、数多くの海外フェス出演により国外でも注目される。2013年には「攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Paina」のED曲を担当し、大きな反響を呼ぶ。2014年はSalyuとしてデビュー10周年を迎え、リリースやライブなど精力的に活動。今年4月22日には5枚目となるオリジナルアルバムのリリースが5月5日からは全国ツアーが決定している。
赤い公園
高校の軽音楽部の先輩後輩として出会い、佐藤、藤本、歌川の3名によるコピーバンドにサポートギターとして津野が加入。2010年1月結成。東京:立川BABELを拠点に活動を始める。2012年2月ミニ・アルバム『透明なのか黒なのか』をEMIミュージック・ジャパン(当時)より発売。2012年5月ミニ・アルバム『ランドリーで漂白を』発売。約半年の活動休止を経て、2013年3月1日活動再開を発表。5月5日から復活祭と称したツアーを東京/名古屋/大阪で実施。全公演ソールドアウト。2013年8月1st FULL ALBUM『公園デビュー』発売。2014年9月に2nd『猛烈リトミック』を発売。作詞・作曲・プロデュースを務める津野の才能がアーティスト・クリエイターから注目を集めており、SMAP「Joy!!」の作詞・作曲、南波志帆「ばらばらバトル」などの作詞・編曲等の楽曲提供を行うなど、活動の幅を広げている。
撮影 倭田宏樹/Hiroki Wada(TRON)
文 三宅正一/text Shoichi Miyake(ONBU)
編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara