——歌詞の意味という面では、Salyuさんはメッセージ性の大きな曲を歌うことも多いじゃないですか。それは小林さんがSalyuさんの歌に大きなメッセージを託せると確信しているからだと思うんですけど、なかなかナチュラルに体現できるものではないと思う。一方で、今は響きの面ではsalyu × salyuで徹底的に追求できていると思うし、それがメッセージ性の高いポップスをナチュラルに歌うSalyuワークスにいい影響を与えてるのかなって。
Salyu「うん、そうですね。確かにsalyu × salyuがあるからこそ、ソロでもっとやれることがあるなって前向きに考えられるようになった感じはありますね。要するに、ポップスと向き合ううえでもっとやれることがあるなという」
——たとえば「to U」なんて技巧的な意味においても、メッセージ性の大きさから言っても、堂々と歌える人なんて日本に何人もいないと思う。
Salyu「音楽ってすごく不思議で。たとえば“to U”は曲を書いてくれた桜井(和寿/Mr.Children)さんにただ歌詞を渡されて、『こういう歌だよ』って歌って見せてもらうだけでは理解できなかったことってすごくあって。あの歌にある優しさや美しさって、自分で歌ってみた瞬間にパッと見えたんですよ。『あ、もうここだな、これは人間賛歌だ』って思えた」
——ヒューマニズムの歌であり。
Salyu「そう、ヒューマニズムだよね。だから、一つひとつの言葉に心を込めてとかそういうレベルではない。私がシンプルに音楽が好きだな、歌うことが好きだなって思いながら歌うことがおそらく“to U”に対する最も適切な態度なんです。そう思えたときに音楽って不思議だな、すごいなって思いますよね」
津野「すごい話だ……。歌のアプローチで迷うことってあまりないですか?」
Salyu「いや、ありますよ。『1日考えさせてください』って帰っちゃうときもあるし。小林さんに相談したりね」
津野「相談して解決することも多いですか?」
Salyu「ありますね。チームとして動いてるから、楽曲の監督であるプロデューサーが『これでいいんだよ』ってひとこと言ってもらえるだけで整理されることもある。でも、1週間後に『やっぱり半音下げてもいいですか?』って言うようなこともよくありますけどね(笑)」
津野「妥協はしてないですもんね。曲を聴くだけで伝わってきます」
——あらためて、Salyuさんは赤い公園の音楽にはどんな印象を持ってますか?
Salyu「あの六本木のイベントのときに赤い公園さんのステージを初めて拝見して。すごく感動しました。あのとき観たみなさんの魅力をどう言葉にしたらいいかわからないんですけど——あの、その前に津野さんからお手紙をいただいたりしていたので、どうしても津野さんに目がいくわけですよ。『どんな子なんだろう?』って。でね、津野さんの脚がすごくきれいで。セクシーだなと思って」
津野「そんな、そんな!」
Salyu「そのルックスもポップでいいなと思ったんです。音もカッコいいし、ボーカルの方が持ってる腹の括り方もカッコいいし、『ああ、いろんなことをわかってるバンドなんだな』って思いながら釘付けになってました」
津野「ありがたい……」
Salyu「『この輝きってなんだろう?』って思いましたよ。それから小林さんや何人かの友人に赤い公園の話をしました」
津野「うれしい。余談になりますけど、私たちは西東京地域で育った、新青梅街道の果てのヤンキー感みたいなものがあって。そんな我々が六本木の街中でライブをするということで、あの日は反骨精神もあったんですよ。『何クソ六本木の人たち!』って」
Salyu「あははははは」
津野「そういう状況を楽しんでましたね。あのとき演奏しながら上手のステージ袖でライブを観てくれているSalyuさんが視界に入ってきて。『10秒以上見つめたら死んじゃうぞ』って自分に言い聞かしてました」
Salyu「津野さんってホントにおもしろいね(笑)」
津野「ライブが終わったときに話しかけてくださいってふと我に返って」
Salyu「『今から急いで別現場に行かなきゃいけなくてSalyuさんのライブを観れないんです。ゴメンなさい』って言ってくれてね」
津野「ライブをやるだけやって、好きな人に『好きです!』って言って帰るっていう(笑)」
Salyu「すごく印象深い日でした」