−−本作を演じてみて、改めて“恋”とはどんなものだと思われました?
豊川「男性が女性を求める、女性が男性を求めるという行為は決められたことであり、個人レベルでどうのこうのできるものじゃないんですよね。それはDNAに刷り込まれていて、僕らはそういう風に作られている。だからこそ、悩んだり苦しんだりする時もあるけど、そこに向かわざるをえない。それを受け入れて、自分に素直になって表現していくってことなんじゃないかな」
−−海江田の関西弁というのは西先生にとっても譲れないこだわりだったそうですが、大阪出身の豊川さんのお話になるやわらかな関西弁から紡ぎ出されるセリフの数々に、思わずクラっとしてしまいました。
豊川「相田みつをさんのカレンダーレベルでの名言が飛び出していましたからね。宣伝部のスタッフと、『海江田のセリフで日めくりカレンダー作ったらいいんじゃない?』なんて冗談で言い合ってるんですけど、それくらいしびれるようなセリフが多くて。原作を読んだときに、これは活字だからいいけど実際に口にしたらどう聞こえるんだろうと思ったりもしたのですが、西炯子先生の本当の意図はわかりませんが、関西弁だと音やイントネーションも少しマイルドになるので、海江田の言葉がより伝わりやすいんじゃないかな」
——鑑賞していて印象に残るシーンの連続ですが、特に思い出深い撮影時のエピソードがあれば教えてください。
豊川「台風のシーンを撮影をしたときに、本当の台風が来てしまったことですね。大きなファン回したり、放水車を出したり、一生懸命に人工の嵐を作り出していたけど、その現場の外でも実際に嵐が起きていて。最後は日の出時間と戦いながら、凍えつつの撮影になりました。この作品は一ヶ月まるまる合宿で撮影したので、スタッフ、キャストが毎日同じ場所に帰って、同じ場所に行き、同じごはんを食べる。そういう時間を繰り返していくと、本当にクルーとしてまとまっていく感じが日に日に伝わってきて。僕はそういうスタイルが好きだし、楽しい現場でした」
−−ポスターにも使用されている“足キス”のシーンは、官能的でありながらどこか幻想的で、大変美しかったです。
豊川「人間、自分の生理にない行為をするときは想像でやってみるしかないので、やはり緊張しましたね。そういう愛の形はあるんでしょうけど、実際どうすれば良いんだろうって、まさに手探り状態で。何回もテイクを重ねて、いろんな体勢だったり、手法だったりを撮った中で、チョイスされたのがあのメインビジュアルのカットです。偶然窓から西日が射してきて、綺麗なシーンになったと思います」
−−榮倉さんとの信頼関係を築かれていたからこそ、お二人の空気感が出来上がっていたような印象を受けました。
豊川「初共演だったのですが、撮影が進行するのと同時に僕と奈々ちゃんの距離も近づいていったので、それが映画の中に現れているのかもしれません。奈々ちゃんは一緒に仕事をしていて、リラックスできる女優さん。そういう雰囲気の中から、様々なイメージが湧いてくるようなタイプの方で、つぐみという役にこれ以上なく合っていたと思います。本人は無意識なんでしょうけど、監督とタメ口で話していた時は、さすがだなーって(笑)」
−−まさに、リラックスされていたのかもしれませんね。劇中の海江田が放つ色気は、イコール豊川さんご自身の持つ魅力が担ってらっしゃる部分が大きいと思いました。
豊川「……難しい質問ですね。ひとつ言えるのは、男の色気というのは年齢や経験に依るものではないということでしょうか。すごく色っぽい少年もいれば、おじいさんもいる。自分ではわかりませんが、コミックの海江田の持つ色気が、少しでも表現できているんだとすれば、光栄ですね」
−−最近の出演作では『ジャッジ!』での適当な広告マン役も楽しかったし、『春を背負って』で無骨でたくましい山男姿も印象的でした。作品選びをするときのポイントなどはあるんでしょうか。
豊川「良く聞かれるのですが、これという基準があるという訳ではなく。ただ、キャラクターの種類として、前とは距離があるような役をやりたがる傾向にあるとは思います。毎回、全く違う人間を演じてみたいっていう願望が強いのかな。僕はどちらかというと、髪の毛伸ばしたり切ったり、ビジュアルもいじるほうなのでそういう作業も楽しいですし。うまく出来ているかどうかはわからないですけどね。最近は、若い時よりはマイペースに芝居をさせてもらってますけど、中身的にはあまり変わってないですね。これからも自分がやってみたいという役に出会えて、演じ続けていければいいかなって。情熱と言えるほどのものなのかはわからないけど、それこそがこの仕事の醍醐味なんだと思います」
撮影 中野修也/ photo Shuya Nakano
文 加藤 蛍/text Hotaru Kato
編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara
『娚(おとこ)の一生』
全国ロードショー中
公式サイト:http://otokonoissyou-movie.jp/
配給:ショウゲート
監督:廣木隆一
原作:西炯子『娚の一生』(小学館 フラワーコミックスα刊)
出演:榮倉奈々 豊川悦司 / 向井理