仕事にも不毛な恋愛にも疲れ果て、東京での暮らしを捨て田舎の祖母の家へと移り住んだアラサー女性のつぐみ。そこへふらりと現れたのが、亡くなったつぐみの祖母へ恋心を抱き続けてきた52 歳の独身の大学教授・海江田醇(かいえだじゅん)。そんなふたりの、風変わりで大人のおとぎばなしのような恋模様を描き、全4巻で累計160万部を突破した人気コミック『娚(おとこ)の一生』が待望の映画化。下駄姿でタバコをくゆらせ、関西弁でいけずな台詞を繰り出すがふとした時に優しく包み込んでくれる海江田醇という女性のツボを突いてくるキャラクターを男の色気たっぷりに完璧に演じた豊川悦司にインタビューを試みた。
——豊川さん演じる海江田醇がコミックスからそのまま抜け出てきたように完璧な姿で、初めて観たときは驚嘆と歓喜でいっぱいでした。
豊川「そう言っていただけるのはうれしいですね。原作コミックにはたくさんのファンがいらっしゃって、この役の話をもらった時も本当に僕が海江田を演じていいのかなっていう思いもありました。もちろん映画とコミックは別物ですが、ファンの方の思いは大切にしたかったので原作のイメージをなるべく損なわないよう、髪の毛や衣装などビジュアル的にも気をつけました。僕がコミックスを読んで最初に漠然と浮かんだ海江田像は坂本龍一さんや姜尚中さん。それで、やっぱり髪の毛は白髪混じりかな、とヒントをもらったり。白いYシャツ、黒いパンツひとつとっても、海江田っぽいものをと僕自身でも考えたりもしました」
——海江田という人は包容力もあるけど、ふと見せる少年っぽさにギャップを感じてドキッとする方も多いんじゃないかと思います。豊川さんご自身、海江田をどういう人物だと捉えていましたか?
豊川「男性のあらゆる要素を持っている人だと感じました。演じるときに心がけたのは、つぐみ(榮倉奈々)にとっての父親であり、夫であり、恋人であり、弟でいようということ。あらゆる世代の女性にとっての異性との関係性をすべてのシーンごとに織り込んでいければ、海江田の魅力に近づくことができるのではないかって。このシーンでは父親っぽく見えるように、このシーンでは旦那さんっぽく見えるように、そういう風に考えながら演じていました」
——同年代の男性から見て、海江田が恋に臆病になる気持ちに共感される部分がありましたか?
豊川「海江田の恋愛というのは、52歳という年齢の割には、ものすごく恋愛経験の薄そうな人の行動パターンが多い気がして。それは良い見方をすれば純粋だし、一方で経験不足とも言える。そのひたむきさが、つぐみには届いたのではないかと。一筋縄ではいかない、奥深い人ではありました」
——女性の立場で考えると、好きな男性のお孫さんと恋に落ちるというのは想像しづらく、海江田のつぐみに対する恋心は、男性ならでは、という風に見えて羨ましさも感じました。年齢を重ねられてみて、女性に対する考え方の変化を感じることがあれば教えてください。
豊川「女性という性の奥深さ、世の中のすべては女性から始まるという思いを、強く実感するようになりました。女性をよく太陽や海に例えたりするけど、本当にその通りで。僕が歳を取れば取るほど、女性という生き物が魅力的に見えてくる。若いときは対等なのかと思っていたけど、そんなことはなかった。圧倒的に女の人の方が上なんですよね」
——それは豊川さんが素敵な女性に会ってきたという証拠なのではないですか。
豊川「だとしたら、僕はラッキーでしたね」