「この作品を準備しながら何度も思ったんですけど、オーケストラって、僕らが生きてる社会の縮図みたいなんですよね」。1月31日に公開される映画『マエストロ!』を手がけた小林聖太郎監督は、クラシック音楽の面白さについてこんな風に表現する。一癖も二癖もある“負け組”楽団員たちが集まって、とある理由で空中分解してしまった名門オケを復活させていく群像劇。2011年の『毎日かあさん』で数多くの賞を獲得した人間ドラマの名手は、長い準備期間をへて、この物語をどんな風に料理したのか──。一瞬で消えゆく音楽の躍動感を映像化する苦労から、ハードな特訓をこなした役者たちへの思いまで、存分に語ってもらった。
──映画『マエストロ!』、クラシックをテーマにした音楽劇としても、オーケストラという職人集団を描いた群像劇としてもすごく楽しめました。原作は、さそうあきらさんの同名コミックス。文化庁メディア芸術祭で最優秀賞を受賞した名作ですが、そもそも小林監督が映画化に関わった経緯から教えていただけますか。
小林「2011年の春だったかな、映画会社アスミック・エースのプロデューサーとお会いして。『こういう作品があるんですけど、いかがですか?』って声をかけていただいたのが最初ですね。すぐに読ませてもらって。『これは難しい。難しいですよ〜!』ってお伝えしたのを覚えてます(笑)」
──ははは。何がそんなに?
小林「うーん、やっぱりさそう先生独特の、あの絵柄ですかね。すごいなと思った表現がいろいろあるんですけど、いちばん強烈だったのは、崩壊しかかってたオケが再結集して、ようやく本番を迎えるシーン。見開きの誌面にバーン!と、筆で描いたような龍が舞ってるんですね。その姿がまさに交響曲の響きそのもので。ページから音が鳴ってるように思えた。ものすごい感動的だったんですよ。でもそれは、マンガだから成立する、いわばさそう先生の発明みたいなものであって…。スクリーンにCGで龍を飛ばしたところで、ナンノコッチャにしかならない(笑)」
──なるほど。実写映画というまったく別の表現ジャンルで、どうすればその感動を伝えられるか、と。
小林「ええ、不安いっぱいでしたね。しかも『マエストロ!』に出てくる楽団員たちって、それぞれ一癖も二癖もありつつも、実はみんなプロとして仕事してきた人たちなんですよ。つまり楽譜通りの、正しいけれども面白みのない演奏をしていたプロが、天道という邪道の指揮者とすったもんだあった末に、いわば集団として一皮むけて最高の演奏を披露する。何だろう、『仏つくってようやく魂入る』じゃないですけど。オケの演奏が微妙に、でも決定的に変化するところを観客に示さないといけない。でもそれって本来は、よっぽど耳のいいクラシックファンでないと分からないような違いじゃないですか(笑)。はたして映像で、そんな細かい変化をちゃんと描けるのだろうかと」