──劇中でも「小林トレーナー」役で登場する松浦慎一郎さんが、本格的なボクシング指導を担当されて。
安藤「練習に入る前、武さんと松浦さんと相談したときに、監督からは『とにかく強くしてください』ってすごくシンプルな注文だったんです(笑)。『これができるようになる』とか『この技術を習得する』とか、具体的な目標を設定するんじゃなくて。とにかく、行けるとこまでいこうと。ハードルが一気に上がりました。ファイトスタイルにしても、私自身はわりときれいなアウトボクシングが好きなんですけど……」
新井「ははは。玄人っぽい。でも、役柄と真逆じゃない? 映画に出てくる一子は、殴られても殴られてもガツガツいくタイプでしょう」
安藤「そうなの(笑)。でも練習シーンはきれいに仕上げたくて必死だった」
──そんな安藤さんを、新井さんは現場でどう眺めてました?
新井「トレーニングに没頭するサクラのしんどさは、今回、現場にいるスタッフ全員が感じてたと思います。それはもう、大変な努力だったから。しかも、映画の冒頭で一度、思いきり緩んだ体型を見せておいて。それを短い撮影期間で絞らなきゃいけなかったから。余計ハードルが高かった。でも、俳優部的に言うと、それはもうどうしようもないんですよね。脇から手助けもできないし。おのおのでやるしかない仕事なんで」
安藤「ふふふふ」
新井「ただ、さっき話したラストの試合シーンだけどは、『これ、マジで大丈夫か?』ってドキドキしましたね。本当にいつ倒れてもおかしくないくらい、凄いパンチががんがん入ってたし……。自分も役者として現場に参加しながら、素で心配だった」
安藤「でもね、私も新井くんを見て、『あ、やばい!』と思ったんだよ」
新井「ん?」
安藤「私が身体を絞るのは、撮影の途中からだったでしょう。新井くんが、クランクイン前『え、そこまでやるの?』と思うくらいストイックだったから(笑)。これはやばい、私もバッキバキに仕上げなきゃって」
新井「今回のうちの仕事は、サクラの足を引っぱらないことだって最初から思ってたので。それが具体的に何かっていうと、ボクサーの身体に見えるってことなんですよね。そこだけ説得力を持たせられれば、あとはサクラがどうにでもしてくれる。ただ最近はもう、普段ダルダルなんでね(笑)。そこだけは、やんなきゃと」
──落ち目の中年ボクサー・狩野祐二と、元ニートのヒロイン・斉藤一子。それぞれのキャラクターについては?
新井「これはどの映画でも同じなんですけど、いわゆる共感というのはあまりないですね。役と自分がぴったり重なるなんてことは、ほとんど起きないし。今回の狩野は、イマドキの言葉でいうとツンデレっていうんですか?」
安藤「あはははははは!」
新井「まずあれが理解できない。ホンを読んでても『へえ、ここで優しくしないんだ……』とか、『え、ここで優しくするの?』みたいなことの連続で。よく分かんないヤツだなぁと(笑)」
──そのよく分からない不器用さが、映画的には素晴らしい効果を挙げてるんですけどね(笑)。どん底を生きてる主人公の2人が、実はすごく純情で。だからボクシングを描きながら、身を切るように切ない“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語としても見られる。しかも、2人のセリフが少ないでしょう。
新井「うん」
安藤「われわれ2人はそうですね。そのかわりに、坂田(聡:コンビニの同僚役)さんがずっと喋ってますね(笑)」
新井「あれ、強烈だよね(笑)」
安藤「最高ですよね(笑)。そういう登場人物のキャラクターというか、群像劇としてのバランスみたいなものも、すごく好きです」