−−−初挑戦となる3D映像も、まさにジュネ監督にしか成しえない奇想天外なギミックとして巧く機能しています。
ジュネ「ヴァラエティ誌は『史上最高の3D映画』と評価してくれたよ。悪い気はしなかったね。私も全くの同意見だから」
−−−一方、本編中には妄想力と冒険心あふれるスピヴェット少年が、まるでジュネ監督自身のように感じられる瞬間が幾つもありました。
ジュネ「その意味で言うならば、今日みたいな取材日は胸の内がスピヴェット気分でいっぱいになるよ。外国まで招待され、天才扱いされ、大量のスポットライトを浴びる……まるで別世界に連れてこられたみたいじゃないか。普段の私はプロヴァンスにある家で黙々と絵を描いたりするのを好む人間なんだ。なもんで、こうして注目されると、ああ早くおウチに帰りたいと感じてしまうね」
−−−まさにスピヴェットそのものですね。かつてのジュネ少年も彼に似てイマジネーションに富んだ幼少期を送っていたのでしょうか。
ジュネ「いま思い返すと、映画に繋がるようなことを黙々とやってたなあ。人形を使って即興芝居を演じたり、両親のランプを分解して照明代わりに使ってみたり……そういう一人遊びが自分の原点としてあるのは確かだと思う」
−−−スピヴェットみたいに家出した経験は?
ジュネ「ないね!イマジネーションの範疇では何万回と家出したものだったが、意外とそれだけで満足してしまうクチだった」
−−−本作ではスピヴェットのお父さんとお母さんが印象深く描かれていて、ああ、子供にとって親の存在はスーパーヒーローにも等しいほど力強いものなんだなと感動しました。ジュネ監督にとってご両親の存在はどのようなものでした?
ジュネ「私の父は電話会社に勤務するサラリーマンだった。傑出した才能に恵まれてなどいなかったが、それでも詩を書いたり、楽器を弾いたり、それから演技も少しかじっていたようだ。歳を取ってからは絵も描いていたっけね。つまり、それら全てを総合すると“シネマ”になるってわけさ」
−−−へえ!!
ジュネ「ついでに私の祖父の話もしておこうか。彼はもっぱら“髪結い”として生計を立てていたが、週末だけは映写技師に変身して観客を楽しませる特殊な人でもあったんだ。私の中にある映画のDNAは、そんな彼らから受け継いでいるのかもしれないね」
−−−監督が映画の道を志す上でも、きっと力強くサポートしてくれたのでしょうね。
ジュネ「それはない。完全なる『ノー!!!!』だ。どれだけ父に『映画なんてやめて、まともに働け!』と言われたことか。両親は私がセザール賞を受賞した時、ようやくこの仕事について認めてくれたんだ。もう大丈夫だと感じたらしい。それまではとにかく長くて、険しい道のりだったよ」
Vol2に続く
撮影 山谷佑介/photo Yusuke Yamatani
文 牛津厚信/text Atsunobu Ushizu
編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara
『天才スピヴェット』
モンタナの牧場で暮らす10歳のスピヴェットは、生まれついての天才だ。だが、身も心も100年前のカウボーイの父と昆虫博士の母、アイドルを夢見る姉には、スピヴェットの言動が今ひとつ分からない。さらに、弟の突然の死で、家族の心はバラバラになっていた。そんな中、スピヴェットにスミソニアン学術協会から、最も優れた発明に贈られるベアード賞受賞の知らせが届く。初めて認められる喜びを知ったスピヴェットは、ワシントンDCで開かれる授賞式に出席するべく、家出を決意する。数々の危険を乗り越え、様々な人々と出会うスピヴェット。何とか間に合った受賞スピーチで、彼は<重大な真実>を明かそうとしていた──。
監督:ジャン=ピエール・ジュネ『アメリ』『デリカデッセン』『エイリアン4』 原作:「T・S・スピヴェット君傑作集」ライフ・ラーセン著(早川書房刊)
出演:カイル・キャトレット(新人)、ヘレナ・ボナム=カーター『チャーリーとチョコレート工場』『英国王のスピーチ』
ジュディ・デイヴィス、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソン、ドミニク・ピノン
11月15日(土) シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開(3D/2D)
© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA
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