——それぞれの関係性、それぞれのエピソードに共感しながら拝見していたのですが、なかでも特に考えさせられたのは家族のことでした。この作品は西田監督ご自身の家族関係なども反映されているものなのでしょうか。
西田「あぁ、どうですかねぇ。……あの、これが作品でいいたいことでもないので、言うか迷うことなんですけど。……僕、兄がいたんですけど事故で亡くしてるんです。それもあってこの作品を書いたのかなっていうのを、最近になってなんとなく思ったんですよね。書いている時はそんなふうに思わなかったんですけどね。僕がこの作品の登場人物の中で一番共感するのは――もちろん全員のキャラクターに思い入れがあるんですけど、敢えて言うなら一番はやっぱり進で。彼の、相手を慮って言えばいいことを言えないっていうあたりは、自分も同じなのでわかる部分があって。で、そういう慮って言わないことってうちの家族にも通じるところがあるのかなと。僕も兄の死後、兄のことを口にしないほうがいいのかなって子供心に気遣っていた部分もありますし。そういうところが、この小野寺姉弟のベースにあるような気がします」
——また、この作品の中では小野寺姉弟のファッションや住む家、より子さんなどが作るご飯といった細かいディテールも印象的でした。監督としてはそこもやはりこだわった点なのでしょうか?
西田「そうですね。ファッションや姉弟が住む家は舞台からの延長で。こういうテイストでやりたいってことを伝えて、衣装さんや美術スタッフの方に揃えてもらった感じですね。家の間取りは舞台と違うんですけど、古いけどなんかかわいい、ああいうところに住みたいと思ってもらえたらいいなと思ったんです。出てくるご飯もフードコーディネーターの方と打合せしながら決めていったんですが、やっぱり、そういうディテールで作品の中に何か引っ掛かりとか楽しみを感じていただけたらと思ったんですよね。出てきたご飯を見て美味しそうだなぁって感じていただけたら、何もないような時間からでも何かを感じていただけると思うので、そこはすごく大事だと思いました」
——そういった細かいシーンも含め、この作品は観た人がいろいろなものを受け取れるものだと思うのですが、監督がこの映画を観て一番感じてもらいたいと思っているのはどんなことですか?
西田「んー、見ていただいた方にただ感じてもらえたらいいなと思っているので、そのへんはあまり口には出したくないんですけど……漠然としたことで言うなら、みんなそれぞれ生き方があって、そのそれぞれの生き方でいいんだよっていうこと、って感じですかね。あとは、あなたのことを理解してくれる人は近くにいるんだよ……とか。今ってこんな時代で情報が溢れてるから他者と比べてしまうじゃないですか?それで自分の生き方に悩んでしまう。人それぞれ生き方は違うけど、でもきっとそれでいいんじゃないかなって思うんですよね」
——映画の中で進が探し続けている“ありがとうの香り”。監督個人としては何を思い浮かべますか?
西田「あー、えーっと……お風呂の匂い、ですね。自分が入ったお風呂じゃなくて(笑)、誰かが入った後の、石鹸とかのいい香りと湯気がほわ〜っとしてる感じ。入ったのが誰かにもよりますけど(笑)。でも、あの感じが温かくて幸せの象徴のような気がします」
——映画のラストもすごく印象的ですよね、あの二人の日常は映画が終わってもそのままどこかで続いていくような感じで……。監督としてはあの二人の今後はどうなってほしいと思いますか?
西田「僕の中では勝手に続編があればって考えてて、例えば、ロードムービーにしても面白いかな、なんて。二人でいろんなところに運転して行くっていう。向井くんもはいりさんも続編があればやりたいと言ってくれてるんで、いつか実現できたらなと思ってます。でも、まずは今回の作品。公開を控えて、実はすごくドキドキしてるんですよ(笑)」
文 片貝久美子/text Kumiko Katagai
編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara
『小野寺の弟・小野寺の姉』
10月25日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演:向井理 片桐はいり 山本美月 ムロツヨシ 寿美菜子 木場勝己 / 麻生久美子 大森南朋 / 及川光博
監督・脚本: 西田征史 原作: 西田征史「小野寺の弟・小野寺の姉」(リンダパブリッシャーズ/幻冬舎文庫)
©2014『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会