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サーストン・ムーア『ザ・ベスト・デイ』インタビュー

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―それで、ここで3年前のソロ・アルバム『デモリッシュド・ソウツ』について話を伺えますか? あのアルバムは、アコースティックなスタイルにフォーカスされたサウンドや、その制作の背景や状況も含めて、これまでのあなたの膨大な量のディスコグラフィの中でも特殊な位置づけの作品だったと思うのですが。あらためて振り返ってみて、あのアルバムは当時のあなたのどんな部分を捉えて映し出された作品だったと思いますか?

サーストン「『デモリッシュド・ソウツ』は、とにかくつらかったというか……世界で一番美しいマリブにあるベックのホーム・スタジオで……若き天才と一緒にレコーディングする機会に恵まれて、しかもベックのホーム・スタジオで、キッチンではベックの子供が走り回ってるっていう、絵に描いたような幸せな中にいるのに、自分の人生はボロボロっていう状態で……キム(・ゴードン)と別れたばかりで精神的にも追いつめられてたし、失意のどん底の中から、自分がまさに経験している状態について曲にしたためていったという。感情的にものすごくギリギリの状態というか、12弦のギターだけで大半の曲を書き上げてね。だからまあ、本当に、精神的にも感情的にもつらい時期だったよね……アルバムのタイトルを『デモリッシュド・ソウツ』にしたのも、まさに当時の自分の精神状態を表しているというか(笑)、とにかくもう病んでいて、自分なんて壊れてなくなってしまいたいという願望が表れてる(笑)。タイトル自体は、実際、ワシントンDCのハードコア・バンドのザ・フェイスの曲から取ったものなんだ。マイナー・スレットとフガジのイアン・マッケイの弟がやってるバンドでね。だからまあ、深い悲しみの中で作った作品であって……ただひたすら、あのアルバムの音楽に集中することで気を紛らわしていたというか……しかもベックがそのへんのところをものすごく繊細にくみ取ってくれてね。だから、あのアルバムを振り返って聴くのはいまだにつらいんだ……ただ、作品を作ったことに対して、すごく誇りに思っている。アーティストの自分にとって重要な記録であるし……ただまあ、そこから先に進めて、ホッとしているけどね。次のアルバムは、新しい人生についてだったり、ポジティヴな感情や、新しい愛について、前向きな気持ちが表れている。それで『The Best Day』っていうタイトルがついてるんだ」

―あのアルバムを作れたことで自分が変わった、という感覚はありますか?

サーストン「そうだなあ……それを目的にしてたわけじゃないけど、結果的にあのアルバムを作ることで自分が癒されたってことはあるだろうね。ただ、アルバムを作ってる最中はそんなこと一切考える余裕なんてなくて、ただひたすら音楽に打ち込むことでその場を凌ぐというか、そこで作ってる音楽が自分がそのとき経験してることをそのまま映し出している。ただ、自分の気持ちが癒されることを目的として作ったんじゃなくて、ただクリエイティヴな状態に身を置いていたかった。それが結果的に、自分を癒すことに繋がってたって感じだよね」

―わかりました。で、その『デモリッシュド・ソウツ』に続く新しいソロ・アルバム(『ザ・ベスト・デイ』)がこの秋にリリースされるわけですが、現時点で新曲として公開された“Detonation”を聴いて、いわゆるバンド録音のサウンドでもチェルシー・ライト・ムーヴィング名義のそれとはテイストが違う印象を受けました。話せる範囲で構わないので、新しいアルバムについて教えてくれますか?

サーストン「アルバムの中に入ってる曲の大半はソニック・ユースのスティーヴ・シェリーと、ロンドン在住のジェームス・エドワードってギタリストと、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのデビー・グッギで作ってて、それ以外ではまだ誰にも聴かせてないんだけど、作業自体はすでに完成してるんだ。自分名義で出す、初めての正式なソロ・アルバムって感じになるのかな……ツアーも今言ったメンバーで廻ることになると思う……どれだけ続られるのかわからないけどね(笑)」

―サウンド的にはどんな感じですか?

サーストン「まあ、ソニック・ユースから一皮むけたかな……ソニック・ユースよりもシリアスなんだけど、同時にアクセスしやすい感じかな」

―では、もう会場行きのバスの出発時間が迫っているということなので(笑)、最後の質問になります。今現在、ソニック・ユースの今後の活動についてあなたがどう考えているのか、率直なところを伺いたいのですけど。

サーストン「自分の中ではいまだに健在というか、『デイドリーム・ネイション』の再発とかもそうだし、いろいろと細かなリリースが予定されてるしね。他にも作りかけの作品もあったり……結局、バンドがこの先どうなっていくかなんて誰にもわからないわけであってさ。ソニック・ユースは解散したって正式に発表したわけでもないし、ただ、しばらくは距離を置く必要があるっていう……お互いの関係のために今は距離を置く時期なんだっていう、それだけのことだよ。ソニック・ユースって、自分にとっては家族以外で、自分の人生を決定づけるもので、それこそ20年代前半にソニック・ユースを始めて今は50代になるから、大人になってからの人生の大半をソニック・ユースとして過ごしてたことになる。ソニック・ユースのバンドの何がすごいかって……何て言うかな……徹底的に民主主義というか、すべてにおいて民主主義の姿勢が貫かれている。これまでソニック・ユース名義で出したすべての曲にしろ作品にしろ、決して誰か一人によるものじゃなくて、あくまでもソニック・ユースの作品なんだ。ソニック・ユースにおいては、分担作業ってものが存在しないというか、常に共同体として作業していく……まさに共同体って感じだよね、バンドが一つの集合体でありチームというかさ。メンバーの誰かが持ち寄ったアイディアなり曲なりを、ソニック・ユースという共通の叩き台に乗せることで、全体として形になっていく……そこに、あのバンドの主義なりスタンスが貫かれていたと思う。しかも、いろんな音楽なりアイディアが構成要素としてあってさ。パンク・ロック以外にも、ジョン・ケージなんかの前衛音楽や、マイナーな音楽だったり、世界各国のフォーク・ミュージックだったり、いろんな音楽なりインスピレーションが織りなされたところに、一つのプロジェクトとして完成してるという……そんな感じのイメージかな。それと決して売れるためになびいたことがないっていう……その姿勢が大いに買われてるのかもね(笑)」

―まさか2014年にスワンズが新作を出して、ソニック・ユースが活動を休止しているなんて、想像もしてなかったですよ(笑)。

サーストン「たしかに(笑)。ただ、スワンズは結局、マイケル・ギラのソロだからね。ソニック・ユースは4人の集合体だからね」

 

撮影 中野修也/photo  Shuya Nakano

文 天井潤之介/text  Junnosuke Amai

 

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サーストン・ムーア『ザ・ベスト・デイ』

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https://itunes.apple.com/us/album/the-best-day/id907174691

 

 

サーストン・ムーア

ニルヴァーナやダイナソーJrと並びUSオルタナ黄金時代を代表するバンド、ソニック・ユースのフロントマンとして83~11年の間に通算16枚の公式スタジオ・アルバムを発表。ソロで3枚のスタジオ・アルバムと多数のセッション/実験作を発表。12年11月に開催した第3回ホステス・クラブ・ウィークエンダーではヘッドライナーを務めた。13年に新バンド、チェルシー・ライト・ムーヴィングを結成しアルバムを発表。2014年10月、ソロとしては3年半振りとなるアルバム『ザ・ベスト・デイ』をリリース。

 

 

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