ヨーロッパで大人気のフランス発ショートアニメーション『ミニスキュル(minuscule)』。フランスの美しい風景(実写)とCGを組み合わせた独自のスタイルが特徴で、ヨーロッパでは2008年からテレビシリーズがスタート、日本でも2012年4月からNHK Eテレで放送されました(日本での放送は終了)。映像的な素晴らしさはもちろん、わずか数分のストーリーにフランスらしいエスプリの効いた笑いが満ち溢れ、その圧倒的な完成度の高さが話題に。そしてもう一つの話題の要素が、夫と2人で共同監督を務めるエレーヌ・ジローさんが、あのメビウスことジャン・ジロー氏の実の娘さんであるということ。今回、初の長編劇場版『ミニスキュル〜森の小さな仲間たち〜』が日本公開されるエレーヌ・ジロー&トマス・ザボ監督ご夫妻に、映画のこと、そして父・メビウスについても語ってもらった。
─『ミニスキュル』の大きな特徴である実写×CGの制作スタイル。映画版でも美しい風景がとても印象に残りましたが、どのような観点でロケーションを選んだのでしょうか?
トマス「背景となる自然風景もひとつのキャラクターのようなもの。TVシリーズでは、短いストーリーに合った牧歌的でかわいらしい風景を選んでいましたが、今回の映画版はアドベンチャーのお話。それに相応しい壮大で野性的で存在感のある風景を選びました。具体的なロケ地は、フランスの南、イタリアとの国境に近い『メルカントゥール国立公園』。谷や渓谷など野生の景色がたくさん残っていて、非常に美しい場所。ミニスキュルの世界観にぴったりだと思ったんです。」
─シリーズ初の長編ということで、苦労した点はありますか?
「特別な難しさはなく、最初から自信を持っていました。ただひとつ、これは苦労というよりはチャレンジですが……今回、3D撮影した実写の部分、スタジオで模型を作って撮影した部分と、フルCGの部分と、3つのテクニックを使っています。それらのつなぎ目がわからないよう、自然な流れに見えるように組み合わせていくことが、技術上での挑戦でしたね」
─ムシたちが主役、台詞が一切ない『ミニスキュル』は、だからこそ音や動きの表現にこだわりを感じます。
トマス「音楽と同様の働きをする擬音や音響効果は、台詞のないこの作品にとって非常に重要なものです。特にインスパイアされたのは『スター・ウォーズ』などのサウンドデザイナーとして知られるベン・バートの手法です。それは、風の音や草の音など自然音に、紙を破る音など人為的な音を混ぜ合わせるというもの。僕らもテレビシリーズの時から取り入れていますが、音のパーソナリティが浮き出て、キャラクター造形に非常に役立つんですよ」
エレーヌ「ムシたちの動きについては、初めはやはり現実世界のムシたちの生態をよく知ることから始めました。そのあとにもう少し動きを単純化して、スタイリッシュにしていくんです。観客がより認識しやすく、しかもかわいらしい表現にね」
─台詞をなしにしたのはなぜですか?
トマス「擬人化……人間に似せることだけはしたくなかったんです。ムシはムシなんだってことを、リスペクトしたかったから。だから、例えばカートゥーンの漫画のように、眉毛があったり、人間のような口があるような表現は避けました。目に関しても同じで、人間的な表情は排除しました。リアルであることには、すごくこだわっていましたから」
(後編へ続く)
撮影 金谷浩次/photo Kohji Kanatani
文 根本美保子/text Mihoko Nemoto