―タイトルや歌詞にはどんな意味が込められているんですか?
アメデオ「カズが歌詞を書いてるんで、カズに訊いたほうがいいかもね」
―じゃあ、カズさんから歌詞を見せられたときは、どんなことを思いました?
アメデオ「たしかに印象的なタイトルだよね。たぶん、彼女と彼女の飼っている馬との関係について少し触れてるんだと思うし……ただ、もしかしてそうじゃないのかもしれないし、僕がここで話してはいけないカズの秘密について触れてるのかもしれない……。ときどき、歌詞についてわざと訊かないままにしておくことがあるんだ。カズが説明しようとして困った顔になることがあるから……もし気になるなら僕からカズに訊いてみようか」
―ぜひ次の機会に。ところで、先ほど、今回のアルバムには「自分たちがいた空間や瞬間が反映されている」、「音楽にだけ影響を受けているわけじゃない」と話されていましたが、たとえば身の回りのアートやカルチャーから影響を受けるようなこともありますか?
アメデオ「それは僕の生活にとって重要かってこと? それとも自分たちの作ってる音楽にどれだけ影響してるかってことを訊いてるのかな」
―どっちも訊けたら嬉しいですけど、時間もあるので今回は音楽の方についてうかがえれば。
アメデオ「そうだな……たしかに、ものすごく重要だし……よくまわりを見渡していて……あるいは、絵画でも映画でも観ているときだたったり、普通に部屋に入ったときだったり、何もない空間だったり、誰かの話し声が耳に入ったり、誰かが何かしてるのを目にしたときに、『これをテーマにして曲を作ったらどんなふうになるんだろう?』って、無意識のうちに考えてる自分がいるんだよ。これを音楽にしたらどういう感じになるだろう?とか……ある種の状況をそのまま映し出したような音楽というか……その、何だろう……」
―簡単に答えられる話じゃないですよね(笑)。
アメデオ「何しろ、自分たちのまわりにあるすべてが影響になりうるから……前に都会じゃなくて田舎で曲を作ってみたらどうなるんだろう、このバンドにそんなことできるのかなって思って試したことがあるんだよ。去年の夏に、イタリアの片田舎で曲を書こうとしてね。ただ、結局はうまくいかなかった。美しい風景の中だと、どうもダメらしくてね。つくづく、自分たちはニューヨークで曲を書くことに馴れてるんだと思ったよ。ニューヨークでスタートして、ニューヨークでずっと音楽を作り続けてきたから、それがすっかり染み着いちゃってるんだろうね。ニューヨークもそうだけど、自分たちのまわりの環境すべてから影響を受けてるよ。ただ、影響っていうのは捉えがたいもので……いつどこで何に影響を受けて、それがいつのタイミングでどういう形で出てくるのかわからない。たとえば一枚の絵を目にした影響が何ヶ月も後になって出てくることもあるし、自分の経験したことでもずっと後になって曲の形で出てきたりもする。僕たちのやり方って、いつもそうなんだ。何かに影響を受けて曲を書き始めるっていうんじゃなくて、こう……ただ僕たち3人が同じ部屋にいて、同じ空間を共有し合いながら、お互いに感じ合うところから曲が生まれてくる。もちろん、失敗することもあるし、ただリラックスしてるだけのときもあるし、まわりが見えないほど夢中になってしまうこともある。そう……実際、前に違うやり方で曲を書いたことがあるんだよ。自分はこのアーティストが好きだからこういう曲を作ろう、と思ったとしても、うまくいった試しがないんだ。だから……うん、そういうものなんだよ(笑)」
文 天井潤之介/text Junnosuke Amai
編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara
Blonde Redhead
1993年に日本人の女性カズ・マキノ&イタリアはミラノ出身の双子兄弟アメデオとシモーネを中心に結成、NYアート・ロックの中核を担うベテランバンド、ブロンド・レッドヘッド。バンド名はアート・リンゼイの原点と言えるバンド~DNA~の曲名からとられた。ソニック・ユースのドラマー、スティーヴ・シェリーがプロデュースしたデビュー・アルバムが絶賛され一躍脚光を浴びた。その後アルバム・リリースを重ね、地道にファン・ベースを増やし、あのレッチリが “フェイバリット・アーティスト” と公言しツアーの前座にも抜擢。2011年には渋谷O-EASTでディアハンターらと共に行った「4AD evening」イベントにて、堂々のヘッドライナーを飾るなど、ジャズ・ロックからノイジーな退廃的ドリーム・ポップまで包括するマルチ・レイヤーのサウンドと、特徴的な美麗で強烈にエモーショナルな世界観で、ここ日本でも高い人気を誇る。本作『バラガン』は約4年ぶり通算9枚目となるスタジオ・アルバム。
Blonde Redhead
『Barragán』
発売中
(Asawa Kuru LLC / Hostess)