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Chet Faker『Built On Glass』インタビュー

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―ゲスト・ヴォーカルにKilo Kish(※NY/LAを拠点に活動する女性シンガー・ソングライター。先日〈Kitsuné〉からミニ・アルバム『Across』をリリース)を迎えた “Melt”について教えてください。この美しく官能的なデュエットのさなかに起きたマジックとは、どのようなものでしたか? 

チェット・フェイカー「じつは、Kiloとは一度も同じ部屋でレコーディングをしたことがないし、それどころか同じ部屋にいたことすらないんだよ。レコーディングは全部インターネット上でやったんだ。すごく2013年っぽいでしょ(笑)。最初は、彼女の音楽が好きだから、ツイッター上で彼女に話しかけたんだ。あのトラックも一緒に送ってさ。そうしたら彼女があのヴァースを録って送り返してくれた。それを聴いて、完璧だと思ったよ。(インターネット上でのみやりとりするのは)すごく不思議な感じだったけどね。でもそういう経緯だから、別にお互いの目を見つめあいながら歌っていたとかじゃないよ(笑)。彼女はニューヨークに住んでいるけど、僕がNYに行くときいつもLAとか他の場所に行っていたりして、未だに一度も会ったことがないんだ。彼女も自分のことで忙しいしね」

―先ほどから何度も話に上がっていますが、今作のなかでもとくに“Cigarettes & Loneliness”は、あなたが魅力的なヴォーカリストであると同時に、優れてモダンなサウンド・プロデューサーであることを証明するナンバーだと思います。この曲のイメージが湧いたとき、あるいは制作中、あなたを支配していた感情、頭のなかに思い描いていたアイデアやヴィジョンとはどのようなものだったのでしょうか?

チェット・フェイカー「あの曲は頭から終わりまで、一晩のうちに書き上げたんだ。あの夜のことはよく覚えてるよ。夜の8時にスタジオに行って、曲を全部完成させてスタジオを出たのは朝の6時か7時だった。だから、はっきりとしたヴィジョンがあったというよりも、あの曲が出てきたって感じさ。最初にあのビートが出来たんだ、それでギターを持って、そのビートを中心に作っていった。……自分ではあの曲を聴くとちょっとポール・サイモンを思い出すんだ、ギターとかが『グレイスランド』っぽい感じがしてさ……”I was walking down the street when I thought I heard this voice say…”(“Gumboots”を歌いだす)。とにかく直感的に生まれた曲なんだよ。すごく無意識に自然に出てきた曲で、ありのままの純粋な表現って感じがするから、自分でも気に入っているんだ」

―一方、アルバムの最後を締めくくる2曲、“Lesson In Patience”と“Dead Body”で聴けるあなたの歌声は、あらためて圧倒的です。漠然とした質問で恐縮ですが、あなたが今作を通じてリスナーに伝えたかったもっとも強烈な感情とは、どのようなものだったと説明できますか?

チェット・フェイカー「“Lesson In Patience”のタイトルは、自分自身に向けたものでもあり聴く人に向けたものでもあるんだ。あんまりこういうことを考えないようにはしているんだけど、やっぱり時々、自分がヴォーカリストで、色々な違った世界観を持つ音楽を作っているっていうこともあって、自分の音楽を尊重してくれない人たちがいるっていうことを考えてしまうんだ。それに、コーラスを一緒に合唱できるような曲が聴きたいだけの人たちもいる。それで、この曲までアルバムを聴いてくれた人たちっていうのは、僕と共通した趣味を持ってる、僕が好きなタイプの音楽を同じく楽しんでくれるような人たちだと思うんだ。だから、そこまで聴き続けてくれた人たちにとってそれが「Lesson In Patience(辛抱・気長さからの教訓)」になってくれるかなっていう意味合いさ。それと、自分自身もこのアルバムを長い間作り続けて終わりが見えてきた頃、色々考えすぎたりしてしまったこともあったんだけど、そういう時に自分自身に「まぁ、気長にいこう」って言い聞かせるんだ。いったん座って思考を止めて、ヴィジョンやイメージを思い描き直して、それが何かとかは深く考えず、ひとつのことに集中して取り組む。とにかく「やる」っていうことが大事なんだよ」

―あらためて、アルバム・タイトルの意味を教えてもらえますか?

チェット・フェイカー「『Built on Glass』の「ガラス」っていうのは、アルバムの音楽性と、同時に歌詞の含む意味も象徴しているんだ。ひとつには、このアルバムは本当にすごくパーソナルだから、ガラスの上に立っているような……このおかしな世界のなかでの、儚さのようなものを感じる。それと、ちょっと先のことだけど、このアルバムの後に作る作品はみんな「ガラスの上」に作られるんだ、っていう感覚があるんだ。あまりにもこのアルバムが、加工のされていないストレートなもので、ガラスみたいに感じるんだよ。それと、「フレームに入れる」っていう概念がすごく気になっていて、なんて言うか、僕の人生って正直……そんなに面白いものじゃないんだ。別に僕の生き方や人生が面白いものだから皆に見てほしいなんて思っている訳じゃないんだけど、でもそこで音楽っていうフレームを付けることで、ちょっと違った方向性に人々の関心を向けることが出来る。ガラスってそういうものなんだ。例えば美術館に行って、ガラス板の嵌った額縁に入れられた絵を見て、「これなら自分でも描ける」って思うような作品でも、誰かが額に入れてガラスを通すことで、人々が立ち止まって観るようなものになるんだよ。ガラスに入っているっていうだけで、そうでなければ見逃していたようなものを発見したりするのさ」

―ところで、あなたが自分の歌声の魅力を自覚したのはいつ頃ですか? 答えるのが難しい質問かもしれないですけど(笑)

チェット・フェイカー「わからないな(笑)。今でも自分の歌声の魅力を自覚しているか分からないよ。自分の声が好きな人なんていないと思うな。最近、歌の練習を再開したんだ、もっと上手く歌えるようになりたいと思ってさ。あんまり意識的になりすぎないようにしているんだ、自分の得意なこととか、自分が何が得意で何が苦手かとかについてあまり話さないようにしてるよ。そういうのってなんだか自己陶酔っぽいし……それよりも、プロセスとかに集中する方がいいと思うな」

―では逆に、そんなあなたをこれまで魅了してきた歌声の持ち主とは、どんなアーティストになるのでしょうか?

チェット・フェイカー「僕の名前はもちろん、チェット・ベイカーからとっているんだけど、彼のヴォーカルがとくに好きなんだ、すごく繊細で脆い感じでさ。あのマイクの使い方とかさ。それにジェフ・バックリィやヴァン・モリソンも好きだったよ。あとはソウルも、アレサ・フランクリンやテンプテーションズとかさ」

ー最後に、本誌は「都市で暮らす女性のためのカルチャーWEBマガジン」がコンセプトなのですが、アルバムの中から、あるいは他のアーティストでも構わないので、読者におすすめの一曲を選ぶとしたら?

チェット・フェイカー「他の人の曲でもいいの? 最近ずっと聴いている曲があって、NAO vs A.K. Paulっていうアーティストの“So Good”っていうんだけど、それをおすすめするよ。NAOっていうシンガーと、Jai Paulの弟のA.K. Paulのユニットなんだ。おすすめの理由?『So Good』だからさ(笑)」

Chet Faker / Built On Glass (jake-sya)(HSE-30334)

Chet Faker『 Built On Glass 』
( Future Classic / Hostess)

発売中 2,263円 (税込)

<トラックリスト>
1. Release Your Problems/2. Talk Is Cheap/3. No Advice (Airport Version)/4. Melt (feat. Kilo Kish)/5. Gold/6. To Me/7. //8. Blush/9. 1998/10. Cigarettes & Loneliness/11. Lesson In Patience/12. Dead Body

日本盤ボーナストラック:
1. Kill Switch
※ボーナストラック・ダウンロードカード封入(フォーマット:mp3)
※「Built On Glass」iTunes配信中!
リンク:  https://itunes.apple.com/jp/album/built-on-glass/id830320970

Chet Faker/チェット・フェイカー
オーストラリア、メルボルン出身のシンガーソングライター。12年に発表したデ ビューEP『シンキング・イン・テクスチャーズ』がR&B、ポップ、ソウルをエレ クトロニックとブレイクビーツでコーティングした独自のサウンド・スタイルで 話題となり、本国でゴールド・ディスクを獲得。また豪音楽賞で「最優秀イン ディペンデント・シングル/EP」や「最優秀インディペンデント・リリース」を 受賞している。

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