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Chet Faker『Built On Glass』インタビュー

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―今作の制作に際してもっとも重要なポイントを置いたところはどこでしたか?

チェット・フェイカー「それぞれの曲はかなり性質の違うものが多かったから、全体の統一感を作るのに自分の声にかなり頼ったよ。僕の声以外にほとんど共通点のないような曲もあったしさ。楽器をあまり使っていないのも、そのせいでもあるんだ。あまりにもそれぞれの曲が色々違う世界を持っているから、ヴォーカルをしっかり出さないと一貫性を保つのが難しかった。曲で言うなら“Cigarettes & Loneliness”だね。なんていうか、今回のアルバムの曲の中で唯一、問題に対する解決策を示している曲なんだ。他の曲はみんなさっき言ったようにスナップ写真みたいな、はっきりとした理由のない分析のようなものなんだけどさ。そしてこの曲を書いていた時の場所や情景は、この2年間のなかでもとくにはっきりと覚えている。他の曲ではそんなに鮮明な記憶が残ることはなかったんだ」

―「フル・レングスを制作するにおいて、自分ひとりで部屋から作り出すものに高品質を追求しすぎる必要がないって初めて感じたんだ」とあなたは今作のプレス・シートに寄せています。EPの『Thinking In Textures』と今作を比べたとき、この2年間を通じてミュージシャン/アーティストとしてもっとも変化したのはどんなところだと言えますか?

チェット・フェイカー「プロダクションに関しては、僕はまだまだ学んでる途中って感じがするんだ。『Thinking In Textures』のトラックには満足していなかったから、今回はもっとよいレコーディングが出来るように努力した。それとパフォーマーとしてもね。でも、それが一番変化したところかっていうとそれも違う気がする……変化っていう意味では、音楽的にというより自分自身が変わったと思う。それによって音楽も変化したっていう方が近いかな。あのEPを作った時はまだ本屋で働いてガレージで音楽を作っているただの子供だったけど、そこから突然世界をツアーで回って色んな変なことをやるようになって……色々なことが変わったからね」

―じゃあ、そうした変化を象徴する曲をアルバムから選ぶとしたら、どの曲になりますか?

ェット・フェイカー「“To Me”かな。それか“1998”のどちらかだね。僕はいつもミックスの隙間を全部音で埋めるような、マキシマリストなプロダクションをする傾向があったんだ。それにすごくローファイな音で、それは自分がそういう音が好きだからだったけど、今回はもっと手間をかけて、「Less is More(少ない方がより良い)」っていうのを念頭に置いていた。“To Me”はシンプルさゆえに密度があって、僕が今までに書いたことのないタイプの曲なんだ。だから、そういう意味で変化を一番表しているかもしれない」

―今作で聴けるあなたの歌声は、『Thinking In Textures』で世界中を魅了したあの歌声に紛れもないですが、同時に、今作を聴いて、あなたはまた“新しい歌声”を手に入れたのではないか、という印象を受けました。この意見についてはどう思われますか? 今作の制作を通じて、チェット・フェイカーというヴォーカリスト/アーティストを再発見した、という感覚はないですか?

チェット・フェイカー「うーん、どうだろう……今回は今までよりも『歌っている』から、そのぶん自分の声を工夫して使わなきゃいけなかったとは思う。それに、前のEPのときはまだ22歳だったからね――人の声っていうのが本当に安定するには25歳くらいまでかかるから、あの時からは変化したんじゃないかな。それとEPのときは、タイトルからしてそうだけど、他の何よりもプロダクションに興味があったから、ヴォーカルっていうのは必須の要素じゃない、おまけみたいなものだった。でもこのアルバムはすごくパーソナルな作品だから、自分の声っていうのが重要なツールになったんだ。 だから、そういうことを考えると、再発見したとも言えるのかもしれないね。自分では、やっぱり前から持っている自分の声だからそういう風に感じにくいけど。今回はもっと歌っている……つまり、いろいろな歌い方をするようになったんだ。ツアーもしているから、歌うのが上手くなっているといいんだけど」

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