―その光景はリアルタイムで観ましたか?
チェット・フェイカー「リアルタイムでのテレビ中継はアメリカ国内だけで、その時アメリカにはいなかったから観ていないよ。もちろん、その後で他の国でも流れるようになってから観たけどね。その他にも色々クレイジーなことはあったよ……クレイジーなファンがステージに上がってきたりとかさ。ステージ上で怖いと思うようなことはなかったけど、ショウの後で待ち伏せされたりして怖い目にあったこともあったね(笑)。おかしなプレゼントも色々もらったよ……石とかさ」
―石って、ただの石ころですか?
チェット・フェイカー「そうそう、石(笑)。2日前にはガラスの灰皿ももらったよ、手作りで「Built on Glass, 2014」って書いてあるやつ……いや、クールだと思うけどさ(笑)」
―その灰皿のモチーフにもなった(笑)デビュー・アルバム『Built on Glass』について、あなた自身、もっとも誇りを感じている部分はどんなところでしょうか?
チェット・フェイカー「それぞれ違う理由で、いくつか誇りに思っている部分はあるよ。例えば“1998”とか、あれは基本的にはダンス・ソングなんだ――僕にはずっと人々が踊れる、踊りたくなるような曲を作りたいっていう強い願望があったけど、同時に表現としての音楽っていうものもすごく作りたかった。その2つってそれぞれかなり違ったものだと思うんだけど、どちらも両立させたトラックを作りたいっていうのがひとつの目標だったんだ。僕にとってあのトラックは、その点で大きく前進した一曲だよ。あとは、“Cigarettes & Loneliness”も気に入ってる。でもとにかく、このアルバムを自分自身で作り上げたっていうことに誇りを感じるよ。他の人に気に入ってもらうために作ったんじゃなくて、自分で作りたいものを、自分で書いて必要なパーツを集めて作ったのさ」
―アルバムの制作に費やされた2年間は、けっして短い時間ではなかったと想像します。その間、あなたを今作の制作に向かわせたもの、音楽への情熱を駆り立て続けたものとは?
チェット・フェイカー「そうだね、長過ぎるくらいだったよ(笑)。すごく強烈な体験だった、ほぼ毎日スタジオにいたんだ。普通の仕事をするみたいに、大体週末に休みをとってさ。クリエイティビティっていうのはスイッチを入れるように切り替えることができないんだ。しかもいつそれがオンになるのか、オフになるのかも予測できない。だから時間をかけて、「オン」の時間を増やすしかないんだ。それに、これは僕のファースト・アルバムで、ファースト・アルバムっていうのは人生で1回しか出せないから、単純に楽しいというよりはカタルシスのようなものだった。この2年間っていうのはそれ自体が、僕の人生の中で本当に色々なことが起きた期間だったし、何枚ものアルバムにもなるような時間だったんだ。さっきの、EPをリリースしたときのメリットとデメリットの話にもつながるけど、あれが僕の人生が動き出すきっかけになって、今回のアルバムを作り始めたときすでに僕はその目まぐるしい変化の中にいた。だから、このアルバムはその渦中にある僕自身のスナップ写真のようなものさ」
―『Built on Glass』は、楽曲ごとに独立した世界観を感じさせる素晴らしいクオリティですが、同時に、アルバム一枚を通じて濃密なストーリーをリスナーに体験させるような奥深さを備えた作品であるという印象を受けました。
チェット・フェイカー「うん、これは進歩についてのアルバムなんだよ。まるで自分の皮膚を共有するような感覚だよ、これは全部僕自身なんだ。進歩、成長、成熟みたいな……わからないや、言葉にするのは苦手なんだ。それは君の仕事だね(笑)」