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text by Ryoko Kuwahara

IWD特集:「場」をつくるDJたち  Kali Masha & MAYUDEPTH & TEITEI 座談会 




3月8日の「国際女性デー」を記念し、女性アーティストがつくりあげた作品や表現を通して、女性の主体性のありかや連帯についての対話を試みる本特集。
テクノDJとしてのみならず、パーティのオーガナイザーとして活動する3名に、イベントを主催するに至った経緯、女性が安全に楽しめる場作りに必要な要素やDJを志す後進へのアドバイスなどを聞いた。



→ in English



Kali Masha https://www.instagram.com/kali_masha/ キーウ出身。東京とワルシャワで開催されるパーティ「Switch」主催



MAYUDEPTH https://www.instagram.com/mayudepth/ 東京出身。「MOTORPOOL」や「VITAL」など多くのイベントを手がける。4/11『“TACHYON “ Techno Party』出演 https://ja.ra.co/events/2122957



TEITEI  https://www.instagram.com/teitei08056/ 北京出身。新世代から支持を受けるアーティスト・コレクティブ「電気菩薩」主催。4/5-6『FLIGHT x 電気菩薩 Warehouse Rave』開催 https://flight.zaiko.io/e/flgthbssrave


――まず、それぞれにパーティのオーガナイズを始めたきっかけを教えてください。


Kali「音楽はずっと私の人生の中で指針となるエネルギーだったし、喜びや悲しみという感情の高低の両方をどう受け止めるか教えてくれたもの。それが喜びを感じている時であれ悲しんでいる時であれ、音楽が心を動かすやり方に感動したし、その体験を他の人と共有したいと思った。その結果、同じ情熱を持つ人々と出会うことができたけど、当時の日本のシーンは少し堅苦しく感じていて。というのも、クィアフレンドリーでオープンマインドなコミュニティが充分に存在していなかったから。それで、私たち自身でその場所を作ろうと決めて『Switch』(https://www.instagram.com/switch.party666/)を始めました」


MAYUDEPTH「私はオーガナイズ自体はDJ始めた頃からやってるけど、話すとしたら6年やってたMOTORPOOL(https://www.instagram.com/motorpoolparty/)のことかな。 Contact Tokyo(東京・渋谷のクラブ。2016年開店、2022年閉店)がオープンする前に、DSKE(https://www.instagram.com/dskedj/)から、一緒にパーティーをやらない? って誘ってもらって。DSKEとは当時、交わりがあまりなかった東京のクィアのシーンと、音楽好きが集まるアンダーグランウドなクラブカルチャーをミックスしたパーティができたらいいねって話してた。海外のシーンでは当たり前だったけど日本はその土壌がほとんどなかったんだよね。Kaliが言ってた動機と近いよね」


TEITEI「なんで日本はセパレートしてたんですか?」


MAYUDEPTH「今はだいぶ変わってきたけど日本のクラブは近いコミュニティ同士で集うことが多いように思う。だから例えば、新宿二丁目で遊んでるような人たちは渋谷でやってるようなクラブイベントには馴染みにくい部分があったし、その逆もあった。私たちはそれをどうしたら変えられるんだろうって考えてて。DSKEも私も双方のシーンで活動してたし、共通の友人も多かったから、じゃあ一緒にやってみようってスタートした。でも最初はすごく難しくて。クィアのシーンで普段遊んでいない人にMOTORPOOLは行きづらいって言われたこともあった」


Kali「Switchも同じこと言われる」


MAYUDEPTH「それでもなんとかミックスできるような環境を時間をかけて作っていったかな。色々な人たちのサポートのおかげもあって、あらゆるジェンダーやジェネレーションの人たちが一つになって、という状況がようやくできたのが3年目くらいかな」


――どうやってその3年の中で改善していったんですか?


MAYUDEPTH「Contactは1フロアに3つの空間があったんだけど、その空間ごとにテイストを分けていったの。メインフロアはストイックに純粋に音楽と向き合える空間。ラウンジはドラァグクイーンたちが演出してくれるより自由で華やかな空間に。もう一つはリラックスしたハウス・ディスコの部屋にしたり。音楽的にもカルチャー的にもいろんなゾーンがあって、自由に行き来できるようにしたことで、それぞれの居心地が良い場があって、更にそれが自然に交わることが可能になった。同じフロアに幾つかのシーンが混在しているっていうのがすごく大事だったように思う」



――なるほど。TEITEIは?


TEITEI「私は『愛のテクノギャルズ』ってイベントでDJデビューしました。初めてDJをやって、もっとやりたいと思って。でも日本に来て、まだ誰も私のことを知らないし、友達も少ない。だから自分でイベントやろうと『電気菩薩』(https://www.instagram.com/denki.bodhisattva/)を始めました。最初は自分の誕生日パーティーにして、日曜日にSPACEって場所でやって。そのパーティが終わった後に、働いてた中華レストランの2FにDJ機材をセットして、そこでもパーティをやりました。1Fでみんながご飯を食べてて、2Fでパーティやって。そしたらたくさんの人が来て、話題になりました」


MAYUDEPTH「そのレストランでやったパーティーの雰囲気が今も残ってるよね」


TEITEI「残ってます。なんでもありな感じ。ご飯食べたり、みんな好きなことをしてる」


MAYUDEPTH「そう。TEITEIちゃんのパーティー行くと、みんな思い思いの遊び方してて。音にズブズブにハマってる人もいれば、美味しいもの食べてる人もいて。ちょっとフェスっぽいんだよ」


――どういうパーティにしたいというイメージはありました?


TEITEI「面白いもの。私がめちゃ飽き症で、なんでも飽きてしまうんです。クラブでも同じ場所に10分しかいれない(笑)。だから自分が楽しめるパーティーをやりたいと思っていました。それでプールを入れてパーティもしたことがあります。大きなビニールプールをネットで買って用意して。そしたらお客さんの女の子が本当にビキニで来てくれました」


Kali「すごい! 行きたかった!」


TEITEI「テーマはギャルで。やっぱり私が女の子だから、来てくれる子も安全だと思って、それでビキニで来てくれたんだと思います。プールには水も入れてなかったのに、マジでありがとうございます!」


MAYUDEPTH「いいね! 確かに電気菩薩にはTEITEIがいるっていう安心感がある。女性のオーガナイザーがいるってだけでも安心感が全然違うよね」


TEITEI「はい。本当にすごく安心して来れるそうです。嬉しいです」



MOTORPOOL



電気菩薩


――オーガナイザーとして女性が楽しめる場づくりのためには何が必要だと思いますか?


Kali「やっぱり安全性が一番重要だから、クラブのスタッフは常に警戒しなきゃいけないし、責任を持って対応できないといけない。個人的には、特にハラスメントに関して、東京の男性のベテランDJたちから女性DJへのサポートがもっとあればよかったと思う。サポートが全くないわけではないけど、改善の余地があるなって。
でも同時に、小さなベニューで活動してる若いオーガナイザーたちが、女性、クィア、そして新しいアーティストたちを支援するためにとても良い動きをしてくれているのも見てる。ここ数年で、こういうスペースではより包摂的になってきてるけど、大きなイベントではやっぱり同じDJやオーガナイザーたちが繰り返しブッキングされることが多いんだよね。そしてその多くは男性。トップレベルでの多様性がもっと必要だと思う。実際に、インターナショナルのアーティストも来日しててすごく良いパーティなのに女性DJは自分だけってこともよくあって、一緒にディナーに行っても女性は私だけで、そういうのを気にするタイプじゃないけど女性DJが少なすぎるなって思うことはある。女性同士でもっと広いスペースで一緒にプレイしたいし、理解しあえる存在がいて欲しい。だから適切なサポートが欲しい」


MAYUDEPTH「オーガナイザーもラインナップもほとんどが男性で、お客もシス男性ばかりのテクノパーティが東京だとまだザラにあって。その点、Switchもそうだけど、TEITEIのパーティは女性が主役になってることが多いし全体感のバランスもいいんだよね。お客さんも女の子同士で来てる人たちが多いし、初めて行った時にすごく希望を感じた。いろんなカルチャーの人がいる所がクラブの良さだと思うから、それを実践できてるパーティとして電気菩薩は面白いし、大好き」


TEITEI「でも今ヤバイです。アイデアがちょっと浮かばなくて」


MAYUDEPTH「そういう時あるよね。アイディアに広がりが出なかったりとか、集客が落ちたり、そういったことが重なる時もある。無理に急いで次をやる必要はなくて、そういう時にすごく悩んで、どうしたらいいかって改善していくことで次にステップに行けたりするから」


Kali「この取材の前にちょっと話してただけでもアイデアが出てきてたじゃない? 心配しなくてもアイデアはTEITEIの中にあるし、大丈夫だよ。でも私も今SwitchのパートナーだったDJ MATRIX3K(https://www.instagram.com/matrix3k/)がポーランドに帰ってしまってちょっと大変。例えばさっきの安全性のために、自分のパーティでは誰かにフロアを必ずチェックしておいてってお願いしてるし、自分も見回るようにしてる。ハラスメントが起きないようにね。でもそのためには信頼できるパートナーやチームが必要で、そのパートナーがいないことで大きな責任を背負ってる。TEITEIはそういう信頼できる人いる?」


TEITEI「いるよ。たくさん手伝ってくれる。そういえば、最初の頃、私がオーガナイズしてるのに、親友の彼氏と私が関係があってその人に頼ってやってもらってるって
言われてました。自分で頑張ってるのにひどい」


MAYUDEPTH「そういうこと言いたがる人たちいるよね」


Kali「ほんとそう、うんざりする」

MAYUDEPTH「Kaliが言ってたフロアで問題が起きてないか見回るっていうのは私もやってる。一人で来てる女性には特に気を配って、絡まれてたら間に入ったりもする。TEITEIもすごいウロウロしてるよね」


TEITEI「そうですね」


MAYUDEPTH「そうやって主催者の姿が見えるっていうのはハラスメントの抑止力になってると思う。前にベルリンのTresor(https://tresorberlin.com/)に女友達と3人で行った時、エントランスでオーガナイザーらしき女性が『もしお店の中で何か嫌なことがあったら言って』って伝えてくれたのね。その一言にみんな安心してたし、それを参考にしたいと思った。全員に声をかけることができないけど、女性たちにちゃんといるよって安心させることって大切だなって」


Kali「私は自分自身が日本のテクノシーンでハラスメントや暴行を経験したことがあって。去年フィジカルな暴行を受けた時、クラブのスタッフは加害者を私から引き離してくれたけど、ただそれだけで警察を呼んだりはしなかった。彼はオーガナイザーだし、すごく有名な男性のDJで、そのパーティーにいた他のDJたちもスタッフは9割が男性。みんなが私に起きたことを見ていたけど、何もしてくれなかったし、『大丈夫?』ってメッセージすら送ってこなかった。彼に比べて私は小さな存在で、私ができることは、ただ一人でその場を去ることだけ。でもそれはフェアじゃないよね。
『ああ、誰も私を守ってくれないんだ』って号泣して、その後、彼は私に謝罪してきて関係はよくなってるけど、そのトラウマが今でも続いている。1年が経った今でもそのことを考えて、不安でいっぱいになる。何度も謝罪してくれたのは良かったし、私は彼にもっと改善するよう伝えたから、きっと良い方向に向かってくれてる。でも他の誰にも、私が受けたような傷を経験してほしくない。それが一番大切なこと」


MAYUDEPTH「めちゃくちゃ悲しい。そこにいた関係者が何もしなかったという状況も含め」


Kali「そういうこともあって、『どうやって女性を守れるのか?』ってずっと考えてるけど、全然答えがわからないし、むしろ私が訊きたい。ただ、ポジティブなことだけを話したいけど、実際に何が起きたのかを伝えることも大事だと思うんだよね。私の周りでは、誰もハラスメントについて話していないけど、私はそれを伝えることができる。それだけじゃなくて、女性のDJたちにアドバイスをあげたり、どうやって音楽をリサーチするかとかDJの技術的なことも教えることができる。技術はYouTubeで簡単に習得できるんだけど、それでは学べないこともあって。共感や思いやり、そして信頼は、ナイトパーティーを運営する時にちゃんと理解しておかないといけないってこととかね。特にアルコールがある現場では、他の人の行動にも責任を持たないといけない。それはすごく、すごく大変な仕事。私はミニマルテクノをプレイするのが好きだけど、シーンのほとんどの人たちは安全や感情なんて気にしてない。それが問題だと思う。


その出来事があって、DJをやめることも考えてた。そしたらこのインタビューのオファーをもらったり、他にもアプローチがあって、いろんなことがマジックみたいに進み出して。だから今日はブレーキをかけずに話してしまおうと思った。このインタビューのために改めて深く考える時間をとったたんだけど、そうやって考えることは自分にとってすごく大切だった。私はウクライナ出身だから、戦争も起きていて、いろんなことがいっぺんに自分の身に起きてて。でも同じウクライナの NASTIA(https://www.instagram.com/nastia.dj/)というDJが100%理解してくれて、電話やメッセージで大きなサポートをくれるんです。今は、私はただ自分と同じようなDJと、自分が好きな人たちだけのためのパーティーをやりたい。有名にならなくていいから、素敵な人たちと一緒にいられれば、それだけで十分」


MAYUDEPTH「イベントをやるなら関係者全員が女性が背負ってるリスクを認識してサポートするのが大前提だよね。事前にステートメントを出したり現場でのセキュリティの強化はもちろん、あとはお店がハラスメントに関する情報を知らない場合もあるから共有したり、演者同士でもハラスメントの問題がクリアになっていない人との共演は断ったり。実際に相談したことでその出演者のブッキングをとりやめてくれたお店もあって、その対応はありがたかった」


Kali「日本では被害者がその被害を証明しなきゃいけないけど、それもおかしいし、『彼女にも問題があった、隙があった』って逆に非難されるのをたくさん見た。もちろん信頼できる男性たちもいる。でもおかしいことも本当にたくさんあるし、クラブシーンだけの問題じゃなくて、ソーシャル・イシューだと思う」


TEITEI「少しずつでも犯罪の情報を共有していきましょう。今日話してる中でも共有できることがあったし、共有や連帯を増やしていくことが犯罪をやりにくくさせるから。日本では、嫌な目にあってもあまり言わない人が多いけど、中国だと嫌なことがあったらSNSででもなんでもしっかり言うんです。それで表面化することが多い」


MAYUDEPTH「そうだね。この業界に限らずだけど、日本だと被害について発信した女性を脅すようなことをする人もいるし、隠蔽体質も問題。だから被害者が疲弊して泣き寝入りしてしまうパターンが多いんだよね。私は今の一人一人が自立してる女性のDJたちの関係性も好きなんだけど、海外のシーンを見てるともっと連携が取れているよね。それによって変えていける所があるかもね」


TEITEI「女性たちで集まってPodcastやりましょう!」


Kali「いいね! こうやって女性のDJたちで集まって話すこと自体が少ないからもっと話して共有していこう」



MOTORPOOL



電気菩薩


――ぜひ定期的に集まってほしいです。女性のDJが日本でより活躍し、それを持続可能にするするためのアイデアがあれば教えてください。


Kali「持続可能性? 日本で? 正直言って、現時点では非常に難しいと思う。ギャラについて現実的に考えてみて。例えば私の周りの女性のDJは、1回のギグで1万5千〜2万5千円程度しかもらえないことが多い。音楽や機材のコスト、新しい常にフレッシュなセットを準備することを考えたら、生活を成り立たせるのは難しいよ。持続可能にする唯一の方法は、日本の外でパフォーマンスをして、そこで評判を築いて、その後日本に戻ってきた時に名声が高まって報酬が増えてることを期待する感じ」


TEITEI「私はこれで生活してるけど、生計を立てるまではいってない。仕事探してるくらい」


MAYUDEPTH「今後ブッキングする人や現場責任者に女性の視点が増えていったら、女性の演者にも広がりが出てシーンの雰囲気がガラッと変わってくると思う。女性の出演者は以前よりは増えてきたと思うけど、今はまだオーガナイザーは意識的にリサーチしたりブッキングしないといけない状況だと感じてる。もちろんそのブッキングはリスペクトが前提にあった上でなされるべき。それと、単に数が増えれば良いってものでもなく、次のステップとして裏方も含め女性が主体性を持つパーティが増えていく事が持続可能性にも繋がると思う。海外を見ても、女性やFLINTA* のパーティは盛り上がってるし、面白い才能もどんどん生まれてきてる。これからは女性やクィアのオーガナイザーがキーになると思う」


――最後に、DJを目指す女性へのアドバイスはありますか?


Kali「音楽の歴史を学び、常に異なるジャンルを研究すること。ライブショーに行ってほしい—テクノだけでなく、あらゆる音楽のライブに。音とビジュアルの両方でインスパイアされる場所を訪れて。でも何より勉強、勉強、勉強! 技術を磨くこと、でもそれをあまり真剣に捉えすぎないこと。間違えてもそのプロセスを楽しんで、常に立ち上がって再挑戦しよう。完璧を目指すんじゃなくて、個性で際立つことが重要。日本ではよく権威のある人が、過度に干渉してくることがある。『あそこを間違った』とか見下して、ジャッジしてきたりする。でも間違うのは普通のこと。私も萎縮してたんだけど、ヨーロッパの音楽仲間が『誰がそんなの気にするの? 私たちはコンピュータじゃなくて人間だから間違うのは普通だよ』って言ってくれて、すごく楽になった。だからそんな雑音は気にしないで、自分の好きな音楽にフォーカスしてほしい」


MAYUDEPTH「わかる。私も技術よりもその人が持ってる音楽への愛情や情熱が感じられた時に感動する。悩む時ももちろんあるけど周りの環境や情報に惑わされず自分の好きな世界観を大切にして突き詰めていけたらとてもエキサイティングだよ。それと、この間DJ Poipoi(https://www.instagram.com/dj_poipoi/)くん主催の『CLUB SKIN』の企画で新宿二丁目でDJのレクチャーをやったんだけど、女性もたくさん来てくれて。DJなんて本来学ぶものでも教えるものでもないと思っていたけど、私自身も良いエネルギーをもらえたし、こういう機会ももっと増やしていけたらいいな」


TEITEI「やりたいことをやったほうがいいです。友達が『DJも遊ぶ(Play)だよ。だから楽しいが一番』って言ってくれたんです。だから、楽しくしていきましょう。そして定期的にPodcastやりましょう!」



photo Mikito Hyakuno(MOTORPOOL) (https://www.instagram.com/hyakunomikito/)

text Ryoko Kuwahara(https://www.instagram.com/rk_interact/

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