TAIGEN「イギリスの美術館は伝統は守りつつも、若いカルチャーと融合するのがとても上手いですよね。僕もテート・ブリテンで油絵が沢山飾ってあるところで演奏させていただいたことがあるんです。ソロライブだったんですが、フライデーナイトという冠をつけたイベントがあって、毎週金曜日に美術館の中でパフォーマンスなりトークなりを非現実的な環境で観れるんです。花金なので遅くまでやっていて、集客もいい。エキシビションにお金を払う人もいるし、飲食でお金を落とす人もいて、そんな中で美術にも親しめるという」
天野「それは色々なところでやってるんですよ。例えばシドニーのサウス・ウェールズ・ギャラリーは金曜日じゃなくて人が来ない水曜日にやるんです。パーティを開いて有名な女優や映画監督、小説家を呼んでトークしています。学芸員からは派手な有名人を呼ぶなという反対もあったんだけど、やってみたら案の定ギャラリーへのリピーターが増えた。それは日本でも同じことになるんですよ。イギリスがある種の敷居をなくして、違う業種の人と会ってまた違う仕事が生まれたり、ある種のインフォーマルというか、いつもフォーマルな態度なのにそういうところはすごく早いし、ポップ・カルチャーについての態度が昔から独特のスタンスを持ってるんですよ」
TAIGEN「そうですね」
天野「その背景を持っているイギリスと背景を持ってない日本では、形としては似ているんだけどやっている意味が違うんやろうなという気がするんですよね。イギリスでは傲慢な態度を取ってる人間もポップ・カルチャーを無視ができない、むしろ取り込みたいわけです。それがイギリス人はすごく上手い」
TAIGEN「はい、自然とそうなっています」
天野「それは沢山の植民地を持っていたからかもしれない。政治的に振る舞うのも上手いし、排除するだけでなく取り込むのも上手いから、イギリス恐るべしといつも思うんだよ。小さい島国にも関わらずオピニオンリーダーとしては力が強い。ユーロにも入らないのもイギリス人らしいなと。それは一つの魅力として、つまりアウトプットしてくる魅力としてはポップ・アートもそうですし、ポップ・ミュージック、ポピュラー・カルチャーについての位置付けがステータスとして用意されてるのは日本とは違うところやなと」
TAIGEN「日本人が使う“高尚”という言葉がありますけど、イギリス人はそれにこだわらない人が多い。僕らがコラボした Tim Noble & Sue Webster というアーティストの作品はゴミなどを使ってカオスなオブジェクトを作るんですけど、それから生まれる影が人の顔になっていたりするんです」
天野「彼らはフリーズ・アートフェアで賞を獲ったよね」
TAIGEN「はい。ポスト・ヤング・ブリティッシュ・アーティストでノリはとても若い感じなんですけど、そういう人たちが僕らに話しかけていただける感じが単純に『君たちかっこいいね』という感じで、先入観がない。僕はアカデミックな人間じゃないので作品を見る時、展覧会の説明やディスクリプションを見て、なるほどと思う事も多いんですけど、イギリスではやっぱり作品自体を観て面白いか面白くないかという風に観てると感じるんです。イギリス人はそういう肉感というか感覚的なところがとても多い気がします。アーティストの方やファッションの方も、僕がアートを観ているときのような目線で、僕らを単純にいいじゃんとか、かっこいいじゃんというところで何か一緒にやろうと言ってくれる感じはイギリス人の良いところだと思います」