2018年のノーベル文学賞発表を中止に追い込んだ渾身のルポが、9月に満を辞して日本でも刊行。スウェーデンのフェミニズムの実情、次々と暴かれていく選考組織内の権力闘争……。スウェーデン最大級の#MeToo運動の内幕を克明に描いた力作だ。
その名も『ノーベル文学賞が消えた日――スウェーデンの#MeToo運動、女性たちの闘い』(マティルダ・ヴォス・グスタヴソン/著、羽根由/訳)。
すべては、ある「告発」から始まった
2018年5月、ひとつのニュースが世界中を駆けめぐった。今年のノーベル文学賞は発表中止──。きっかけとなったのは、ひとりの女性記者によるスクープ記事。2017年末、スウェーデン最大の日刊紙「ダーゲンス・ニューヘーテル」は、ノーベル文学賞の選考組織であるスウェーデン・アカデミーに近い《文化人》ことジャン゠クロード・アルノーが、数々の性暴力を行っていたというスキャンダルを報道。アルノーの妻で詩人のカタリーナ・フロステンソンはスウェーデン・アカデミーの会員で、夫妻が経営するクラブ《フォーラム》はアカデミーの援助を受けていた。《フォーラム》では数々のレクチャーやコンサート、展覧会が行われ、文学・芸術界で影響力を得たアルノーは、セクハラからデート・レイプまで犯していた。本書の著者はアルノーの被害者を探して取材を重ね、スクープ記事を準備、公開された内容は国内外で大反響を巻き起こす。
守旧派と改革派の対立、苦闘と挫折――女性たちのもうひとつの戦い
本書後半では、著者が記事を発表した後のスウェーデン・アカデミーの内紛も描かれている。「アルノーとフロステンソンを擁護する守旧派」と「彼らと縁を切りたい改革派」が対立して紛糾した結果、スウェーデン・アカデミーを辞任する会員が続出。規定の人数を満たすことができなくなったアカデミーは、2018年のノーベル文学賞の発表を中止した。この対立は、若い女性事務局長サラ・ダニウスの苦闘と挫折という、本書のもうひとつの「女性たちの闘い」をあぶり出す。
スウェーデンのフェミニズムの実情、次々と暴かれていく組織内の権力闘争。スウェーデン最大級の#MeToo運動の内幕が、いま明らかに。
ジャーナリスト伊藤詩織推薦
「自分の立場を熟知して人の尊厳を踏み躙(にじ)る人間がいる。一方で自分の立場を危険に晒しても声を上げる人間もいる。#MeTooは声を上げた人々と調査報道の賜物だ」
『ノーベル文学賞が消えた日──スウェーデンの#MeToo運動、女性たちの闘い』
マティルダ・ヴォス・グスタヴソン(著)、羽根由(訳)
定価:2,530円(税込)
体裁:四六判 344ページ
出版社:平凡社
書籍紹介サイト:https://www.heibonsha.co.jp/book/b588122.html
PHOTO by Thron Ullberg
【著者】マティルダ・ヴォス・グスタヴソン Matilda Voss Gustavsson
ジャーナリスト。1987年生まれ。スウェーデン最大の日刊紙ダーゲンス・ニューヘーテルの文化部記者。2017年11月、国内外での#MeToo 運動の高まりから、本書のもととなったスウェーデンの文壇における性暴力を告発する記事を執筆。このスクープにより、2018年11月にスウェーデン・ジャーナリズム大賞のスクープ賞を受賞。2020年2月には、優れた文化記者に与えられるエクスプレッセン紙のビヨーン・ニルソン賞にも選ばれている。
【訳者】 羽根由 Hane Yukari
翻訳家。大阪市立大学法学部卒業。スウェーデン・ルンド大学法学部修士課程修了。訳書に『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)、『マインクラフト 革命的ゲームの真実』(KADOKAWA)、共訳書に『「人間とは何か」はすべて脳が教えてくれる』(誠文堂新光社)、『ミレニアム4』『熊と踊れ』(早川書房)、『海馬を求めて潜水を』(みすず書房)などがある。スウェーデン在住。