フィジカルな距離を求められる今、オンラインに没入する時間が増加傾向にある。情報収集や人との繋がりはもちろん大切だが、同時に自身を落ち着いたオフラインの環境に置くこともまた重要だ。自分が求めるものや喜びを感じるものを、己の手を動かして創り上げる時間は、ストレスフルな時代を生き抜くための術でもある。NeoLではハンドメイドのアートで人々を魅了する作家の作品を紹介するとともに、ものづくりの時間へ誘う。
特集第2弾は、夜のストリートに神出鬼没に出現して花の販売を行うフラワースタイリストの花泥棒が登場。バックパッカーをしていた頃に東欧で出会ったシーンから花の持つ物語に関心を持つようになった花泥棒は「花を腐って溶けてどろどろになるまで見てあげて欲しい」と語る。
ーーフラワーアートを始めたきっかけを教えてください。
花泥棒「言葉の定義にもよりますが、あまり自分が作るものにアートという感覚は持って無いです。きっかけは手を使って綺麗だったり面白いものをつくる事が小さい頃から好きだったのでその延長だと思います。色々興味ある中で花を使ってつくることに行きついてみたらそれがピタッとはまった感じです。花の前は洋服を作っていました」
ーー街の花屋さんであまり見かけないような珍しい種や花がよく見受けられますが、花の選定へのこだわりは?
花泥棒「パッと見て直感的にひかれるもの、旬でクオリティが高いもの、あとはお気に入りの生産者もの」
ーー市場での仕入れのコツは?
花泥棒「市場や仲卸の方々と仲良くなること」
ーー花泥棒という名前にした理由は?
花泥棒「『普段は花に興味無い人がいつもの通り道に咲いているなんてことない花に何故かその瞬間は心を奪われてつい盗んでしまう』という妄想にロマンを感じたので。又、小さい時から『盗む』という言葉の奥深さにロマンを感じているので」
ーー花の魅力、それを活用しての空間装飾、それぞれの魅力をどのように捉えられていますか。
花泥棒「花の一番の魅力は腐って無くなってしまうところで、枯れるからこそ本当に美しいと思います。つまりは時限性のある美という点です。勘違いされたく無いのですが、綺麗に咲いてる時のみ美しいという意味ではなく、蕾、開花時、萎れはじめ、枯れてどろどろに腐る、全ての状態にそれぞれの美しさはあり、それぞれの状態を保つ時間には限りがあるという意味です。花を飾るなら萎れた時点で捨てたりドライフラワーにせずに腐って溶けてどろどろになるまで見てあげて欲しいです。数百円で死生観を楽しめるのは切り花の魅力です。
空間装飾はその空間で起こるコト、そこにくるヒト、そこの存在するバショ等の多くの文脈を踏まえて練り上げた上でそれに合う花を生ける仕事と考えています。多くの人の想いが詰まっている物事に自分の中身を花を媒介にしてぶつけている感覚でとてもやりがいを感じます。さらに日本全国のみならず世界各国から輸入された花も日々沢山使うので、それらを使って大きな作品を構築していると、言葉では説明できない『世界と繋がっている感覚』が生じます。ガンダムでいうニュータイプ的な感覚かもしれません」
ーーフラワーアートを製作するため、また空間装飾の基礎知識/技術はどのようにして習得されましたか。
花泥棒「勉強や修行をしたことは無いです。自分に知識や技術も果たしてあるのどうかもわかりません。美しいものやカッコいいと感じるものにはジャンル問わずは常に見るようにしてます。(他のフローリストの作品はあまり見ません) 空間を埋めるということについてはバウハウスのワシリー・カンディンスキーの『コンポジション』シリーズに非常に影響を受けていると思います」
ーー制作のプロセスで一番難しい箇所は?
花泥棒「作品の完成を決めるのが一番難しいです。特に大きな装花の場合はいくらでも花が足せるので、終わりが分からなくなってしまい、減らして削ってやっぱりまた足して完成、という事はしばしばあります」
ーー伸びやかで野性的な命を感じさせるスタイルですが、いけかたの黄金律や自分なりのルールなどありますか。
花泥棒「いつも勢いとフィーリングで何も考えずに生けているのでルールは無いですが、花は一本一本の個体差が大きいのでその個性を上手く出すことは心掛けています」
ーーストリート、夜の街での営業ということが、そのスタイルにも影響していると思いますか。
花泥棒「影響していないです。質問の答えになって無いのですが、ストリート花屋はいつもの帰りの夜道に突然花屋の屋台が出現していて、しかもあまり見たことない花ばかり並んでいたら花に興味がない人でも花を好きにならないかなーと思ってやってます。仕事帰りに道でさっと花を買える世の中はとても素敵だと思います。実状はよく警察に通報されてキックアウトされています。『いつまでもあると思うな親と花売りスポット』とはよく言ったものですね」
ーー最初に作った作品はどのようなものでしたか。また今振り返って自身にどのようなアドバイスをしたいですか。
花泥棒「花での初めての作品は廃棄される花で作った花束でした。今以上に花への既成概念が無かったのでとてもユニークで誰も作らないようなデザインでした。技術的な面ではアドバイスできますが、あの花はあの時の感覚でないと作れなかったのでデザイン面ではある意味今より素敵な気もします」
ーー作品の中にご自身の“核/個性”をどのような形で表現されていますか。
花泥棒「答えるのが難しい質問ですね。自身の核/個性は何か分かりませんが、『やりすぎるくらいが丁度良い』とは昔から考えています。自分は作品に機能性を持たせたいので、例えば観た人に癒しを与える機能を付けるのであれば自分らしさよりも先ず観てくれる人が癒されているように作りたいです。その上で『花泥棒っぽい作品やね』と思ってもらえると嬉しいです」
ーーその“核/個性”を作り上げたプロセスを教えてください。
花泥棒「地元や学生時代の友達と人前で言えないような度を越した遊びやいたずらを沢山してきたこと」
ーー新型コロナウィルス感染症(COVID-19)でクリエイティヴ面にどのような影響が出ていますか。
花泥棒「特にありません。花の市場は通常営業ですし、自分の生活や仕事のリズムは変わらなかったです。創造面では無いのですが、イベントが無くなり装花の仕事が減ってしまった分“dusk”(@dusk_life_eat)というケータリングサービスをやってる方と組んで花束とお弁当の配達サービスをやれたのは良かったです」
ーーコロナ禍で花を買う人が増加しましたが、ご自身でも花の作用をより強く感じた時や場面などありましたか。
花泥棒「自分自身の生活が変わらなかったのでありません。話がズレてしまうのですが、1回目の緊急事態宣言時はストリート販売で買ってくれる人は増えました。皆花を求めているんだ!と思いましたが、宣言が解けて在宅時間が減るとその間に買い始めた人は来なくなりました」
ーーこの側面で新たに気づいたこと、やってみたいアイデアがあれば教えてください。
花泥棒「ウーバーみたいな宅配サービスが花屋と繋がって欲しいです。花に優しい輸送方法で花一本から気軽にその地域の花屋から顧客のところに配達できるようなサービスがあると良いですね。最近とても増えたポストに花が届くサービスより値段は高くなるかもしれませんが、花屋で花を選ぶという感覚が花をより好きになるきっかけになると考えています。昔ながらの花屋さんがちょっとECが得意な会社にお客さんを取られていくのは見たくないですね」
ーー事態が好転し、COVID-19が収束したらしたら何をしたいですか。
花泥棒「花泥棒の事業としては外国で花のストリート販売をしたいですね。そもそもバックパッカーやってた時に東欧の国の路上で、お婆ちゃんが家の庭で摘んできた花をバケツ一杯に入れて売っていて、その花を皆当たり前のように普通に買っているシーンに出会いに感動したことがあります。帰宅してディナーに添えるのか、これからデートで相手にに渡すのかなど、様々なストーリーが想像できて花のある生活はなんて素敵なんだと強く感じました。生活の中に花が根付いていることを体感しました。一方、日本では路上で花売ると通報されるか、うちの前で商売やめてくれ!って怒られます。個人では海外旅行とカラオケパーティ」
ーー最後に何かニュースがあればおしらせください
花泥棒「① 都内で花のストリート販売スポットあれば情報下さい。随時募集してます!② 10月11日(月)-18日(月)12:00-19:00銀座東急プラザの4階『The session』にて花泥棒のポップアップショップ開催する予定です。③ 11月13日(土)~23日(火)の間(仮)原宿のSPACE BANKSIAにて花泥棒の作品の撮影をしてくれているカメラマンの豊田和志くん(@toyotatoyou)と一緒に花と写真の展示会をやります」
花泥棒
フラワースタイリスト
https://www.instagram.com/kono87dorobou/
https://www.instagram.com/konohanadorobou/
作品の購入はインスタグラムもしくはemailにて。ECサイトは今後設ける予定。