行きつけのカフェで一心不乱にメモをとっている小学生がいた。帰り際に脇を通りそのメモが見えた時、パチンと頬を打たれた気がした。アイコニックなブランドのロゴが刻まれたお母さんのものらしきメモ帳に、まだ幼さの残る丁寧な文字で書かれた給食のメニュー。小学生は給食の人気メニューの統計をとっていたのだった。うわあ、役満だ。麻雀のルールも知らないのに、その言葉が思わず飛び出た。
洗練されたデザイン（メモ帳）＋個性（筆跡）＋みんなに共通の思い出（給食のメニュー）、人の気持ちに訴えかけると先生に教えられた完璧な方程式が、クリエイトしてやろうなんて意図はさらさらないはずの、そのメモには存在していた。
かなわないなあ。
わたしも自分が何者かを考えないときはとてもはやく走れた。羽根だってあった。知恵や常識やいろんな重みを身につけてしまったわたしは、まっさらになって再び空を飛ぶ日を夢見ながら、今日もつくり、書くしかない。
世の常識、自尊心、猜疑心などなどの種々の重力。みんなが持っているものだからそのもの自体を忌み嫌うことはしなくていいけれど、わたしはもっと遠くに行きたいんだよと日々言い聞かせておく。グレムリンのように抑えのきかない獣に変貌する前に、自意識を認めて、抱きしめて、いてもいいんだよと作品の中に放つ。そこにある価値観は本当に自分のものなのか、時間をかけて自分を逆さにしながら確認する。その祈りのような作業に時々つまづく、戸惑う、“わたし”を見るのがこわい時もある。でも砂利が靴の中に入ると最高のスピードで走れないから、しっかり砂を取り払わないと。砂ってどこにでもあるしいつのまにか入り込んでくるものだから、大きくジャンプして、逆立ちをして、重みを知って振り払って、もう一度ジャンプ。うん、さっきより少しだけ上まで飛べる。
獣をかいならす指先
手や指を時々眺めては、エイリアンみたいだと思う。不思議な形の、よく動く部位。恐竜の手はどんなだったっけ？ グレムリンの手は不気味だった憶えがある、そんなことを考えている時の思考の疾走感や自由に飛ぶ心地よさをいつも持っていたいなと思う。感覚を忘れないうちに自分の手を素早く色付ける、はみ出してもいいからとにかく楽しい感覚のまま、できるだけ遠くまで行けそうな色に染める。「DARE 2B ME」っていい言葉だな、今日はこれでいこう。（わたしはErika Linderが好きだからどうしたってTHREEのアイテムが増えがちだ）
THREE Nail Polish 本体各1,800円（税別）
Left-Right : 95 CRYSTAL VISION ／ 110 CRUEL CREATION ／ 94 GIRL IN AMBER【限定／完売】／ 90 DARE 2B ME
https://www.threecosmetics.com
photography & text Amenohi
edit Ryoko Kuwahara
