そこで、セルフタッチの必要が生まれる。要は自分で自分を触れて撫でればいいのだが、なんとなく地味で寂しい感じがするかもしれない。だが、爪切りを自分でするのと同じ様に考えれば大した事ではない。セルフケアの一つだと考えてもらえればいい。
美容目的のフェイスマッサージなどは、セルフタッチの一部なのだが、表面的な美しさだけでなく、心の領域まで意識して触れることでより効果が増すはずだ。
セルフタッチには、リラクゼーション目的と、覚醒目的の2種類がある。
リラクゼーションはオイルなどを使ってゆっくり前腕部など心地良い箇所を触れていき、後者は、何も塗らずに勢い良く擦るように撫でていく。肌に直接触れることが目的なので、細部にはこだわらずに自分の好きなよう触れればいい。
前者はゆっくりとした呼吸を意識しながら、全てを緩ませていくようにする。オキシトシンが分泌されるのはこちらだ。オイルは使った方が、より感触が滑らかになり、その滑らかさは心にも影響を与える。このゆっくりとしたオイルを使ったセルフタッチの場合のみ、他者にしてもらうよりもリラクゼーション効果が高まるという興味深いデータがある。自分でする方が効果があるとは、不思議だ。
また、相撲取が取組前に顔を強く擦る仕草をするように、体を速く擦ることには、リラクゼーションとは真逆の覚醒効果がある。勉強や仕事をもう少しやらなくてはならない時には、使える方法だろう。
自分は坊主頭なので、顔から頭頂部、後頭部へとゆったり撫でることが多い。その後に首筋を撫で、前腕部へ移る。それをゆったりと何往復かさせる。時間にして数分といったところ。日頃から結構な頻度でやるので、オイルやクリームは使わないが、かなりリラックスできる。セルフでは仕手と受手の両方を楽しめるので、心地良さも倍と言えるかもしれない。
マッサージという意識よりも、ただ触れる、撫でるという意識の方が、気軽に出来ていいと思う。
肌というのは、自分と外の世界を隔てる境界でもある。その境界をに触れることで、自分自身の存在を確かめられるのも1つの大きな効果だ。確かにここにいるのだという実感は、不思議と安心感を与えてくれる。
私達は、もしかしたら喪失することに慣れてしまっているのかもしれない。自分が周囲の世界からではなく、自分という世界から消えかかっていっていることを知らずにいる存在かもしれない。
私は、自分の頭部や前腕に触れながら、君は確かにここにいるのだな、と自分を確認している。肌の下には肉があって、肉の下には骨がある。体中には血液や水分がある。そういった即物的な事実を時々知ることは、結構大切だろうと、実感している。自分を消さないために。
愛は、自分に触れること。
この小さなアレンジをジョンはどう思うだろう?
(つづく)
※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#15」は2015年3月20日(金)アップ予定。