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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#14触れること

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例えば、乳児に触れた時に、誰もが感じる柔らかさ、温かみ、癒し。説明しがたい幸福感。あれは、いったい何だろう?
科学的な説明では、触れる事によってオキシトシンという物質が脳の下垂体後葉から分泌される。このオキシトシンは、簡単に言えば心を許して接する事ができる向社会性作用をもたらす。
動物というのは、もともと防衛本能が強いのだが、社会を作ったり、子孫を残すための交配活動のために、相手に心を許して接しなくてはならない場面がある。そのために使われるのがこのオキシトシンと言われている。
皮膚というのは、最大面積を持つ感覚器官であり、脳の出先であると言われている。皮膚がどう感じるかは、脳による理性的な判断に大きな影響力を持っている。
肌が合う、という言葉があるように、思考や理性の手前には、身体感覚による取捨選択があって、そこで篩にかけられる相性というのは、最も信頼できる。もちろん、失敗例多々だが。
握手をしただけで、おや?と思ったり、はては生理的に受け付けない何かを感じた時は、その第一印象が正しかったことを後に知った経験のある人は多いと思う。
逆に、触れた瞬間に気を許せる人とは、いい人間関係を結べるだろう。
この肌と肌を触れ合わせるということを医療へ向かわせたのが、マッサージであり、古来より全ての四大河文明において採用されて来た。
相手の温もりが伝わることで、こちらの心にも温もりが生まれることは、科学的な実験を通して証明されている事実だ。脳の島皮質は、心の温もりと体の温もりの双方を兼任していて、どちらかが温まると、残りの一方も温まる仕組みになっているという。なんとも単純に思える仕組みだが、心身にそういうシンプルさもあるということに、安心を覚えたりもする。

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