NeoL

開く

技術が生命や生態系に溶け込み、あらゆるものを侵食していく現代において、人間が「絶滅」の危機といかに向き合うかを問いかける。ヒストポリス – 絶滅と再生 – 展 Histopolis: Extinction and Regeneration





科学は、物事が何であるかは決められるが、どうあるべきか決められない。
だから科学の領域を超えた価値判断が依然として不可欠なのだ。-アルベルト・アインシュタイン-


人工知能やゲノム編集、原子力発電(1963年日本初の原子力発電実施)などの到来は、今や科学技術が政治、経済、生活、制度など社会組織のあらゆる側面にかつてないほどの影響を与えていることを証しており、人類の様々な課題を解決すると同時により複雑な問題をも派生させている。そして、ウイルスを原因とする伝染病は、約12,000年前の新石器革命で人間の行動が変化し、人口が密集した農業共同体が形成されて以来始まった。中国で流行し始めた呼吸器疾患に関連するウイルスのゲノム塩基配列について報告する論文が、2020年2月に総合学術雑誌『ネイチャー』で発表された。このウイルスは、呼吸器疾患の初期症例に関係する海鮮市場で働いていた患者から分離されたと言われている。そのゲノムの解析により、中国で生息するコウモリにおいて同定されていたSARSコロナウイルス群に近縁なウイルスであることが明らかになった。これが現在世界規模で蔓延しつつある新型コロナウィルスである。この状況下で、今、なぜ本展覧会が開催されることとなったのかという意味と問いを投げかけていきたい。
本展は、ゲスト・キュレーターとして髙橋洋介を迎え、監修者の飯田高誉(スクールデレック芸術社会学研究所所長/ジャイル・ギャラリー ディレクター)とともに企画構築したもの。工学的にデザインされた、これまでとは別の次元の自然が立ち現れつつある。それは同時に、技術が生命や生態系に溶け込み、あらゆるものを侵食していく現代において、人間が「絶滅」の危機といかに向き合うかを問いかけることとなる。さらに、カオスの中で変態する時代状況の一端を映し出し、地球史における人類の存在理由を参加アーティストの作品を通して未来的展望にいかに結びつけていけるかを展覧会の主旨としている。
最後に果てしなく展開していく科学技術に対する警鐘を鳴らすことを忘れてはならない。1986年のドイツでエネルギー問題や原子力発電の是非が議論されていた頃、社会学者のウルリッヒ・ベック(註)は、科学技術が生み出した危険を科学技術によってコントロールする私たちの社会のありようを「危険社会」と名付け警告したことを記憶に刻んでおきたい。
「3.11」以降、原発をはじめとして高度技術によってもたらされた様々なブラックボックスが日本に遍在していることは、人々の将来的な不安対象となりそして、今や新型コロナウィルス〈COVID-19〉の感染蔓延が喫緊の課題となっており人類の絶滅と再生、さらに「ネクロポリス」(死者の都市)と「ヒストポリス」(生命を宿す都市)の問題を現実的に浮かび上がらせている。
飯田高誉(スクールデレック芸術社会学研究所所長)


(註)ウルリッヒ・ベック(1944-2015)
ポーランド北部生まれ。ミュンスター大教授などを経てロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会学教授を務めた。現代社会が抱えるリスクを警告した著書『危険社会』(1986年)や『世界リスク社会論―テロ、戦争、自然破壊』(2003)で知られ、ドイツを代表する社会学者。東京電力福島第1原子力発電所事故を受け、脱原発を提言したドイツ政府の諮問機関「倫理委員会」のメンバーも務めた。




ヒストポリス – 絶滅と再生 – 展
主催:GYRE / スクールデレック芸術社会学研究所
会期:2020年6月8日(月)―9月27日(日)
会場:GYRE GALLERY /GYRE 3F 東京都渋谷区神宮前5−10−1 Tel.03-3498-6990
監修:飯田高誉(スクールデレック芸術社会学研究所所長 / ジャイル・ギャラリー ディレクター)
企画:高橋洋介(キュレーター)
デザイン:長嶋りかこ(Village ®)
展示協力:鳴海一成(東洋大学生命科学部学部長教授、生命科学科 放射線微生物学研究室)
展示設営: Suga Art Studio
協力:みらいレコーズ、HiRAO INC
Press Contact:HIRAO INC, Tel:03-5771-8808 e-mail:mifune@hirao-inc.com
出展作家:やくしまるえつこ、ジャリラ・エッサイディ、Synflux、BCL / Georg Tremmel、ガイ・ベン=アリ、 須賀悠介

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS