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彼の身体と彼女の視線が交わす会話。景気変動と関連したイデオロギーへの不安に対する批評ーーCOLLIER SCHORR, BRAD FEUERHELM, NEIL DRABBLE, RICHARD MOSSE





PAUL’S BOOK by Collier Schorr
7,000 円(税別) MACK


アメリカ人フォトグラファー、コリエ・ショアの作品集。作者は、アーティストでモデルの若いフランス人、ポール・ハメリンと2015年にニューヨークで出会った。ポールは友達の紹介で作者の家にオーディションのような顔合わせの撮影(go-see)を受けに行った。この時初めてフォトグラファーは、ファインダーを通したモデルがどう見えるかを知ることができる。ポールの家族はパリのマレ地区に住んでいて、作者がパリに行くときにいつも泊まるホテルはその目と鼻の先にあった。そのことがきっかけで彼らはよく会うようになり、作者がポールの実家に立ち寄り、たわいもない話をしながら撮影するという2人のプロジェクトは2年間続いた。この背景にあるアイデアは、社会的な空間やお互いの魅力や空想を理解しようと彼の身体と彼女の視線が交わす会話として、ポールと作者が写真を体験するというものだった。こうしてできた写真の多くは『Re-Edition』誌に掲載された。同誌でのストーリーを拡張した今回の写真集は、この上なくシンプルな動きや服を脱ぐという行為の様々な段階を見せることによって、フォトグラファーとモデルが高い水準で理解に到達する方法を描いたスケールの大きい作品になっている。






DEIN KAMPF by Brad Feuerhelm
6,400 円(税別) MACK


写真コレクターでありキュレーター、ディーラー、ライター、そして写真家としても活動するブラッド・フォイャヘルムによる作品集。作品のタイトルとその堅苦しい表記を巧みに使い、景気変動と関連したイデオロギーへの不安に対する批評を示唆した。20世紀に幾度となくイデオロギーが衝突したベルリンが常に背景に写り込んでいる彼の写真には不安が内在している。可能性に満ちた苦境の存在を具現化しているこの街では、歴史的な物語と現代の政治やイデオロギーに対する懸念の間の緊張関係が、ランドスケープに点在する視覚的なモチーフの中に現れている。本作は、過去の断片や資本主義的な現代のシンボルに支えられている。銀行や保険会社の他、市民の肖像として出てくる街の人々は、頽廃を内に秘めているようであり、過去、現在、そして訪れることのない未来の亡霊のように見える。作者は、装置のエラーを利用して作品を制作する「グリッチ」と、既存の作品、イメージを自覚的に作品に取り入れる「アプロプリエ―ション(盗用、流用)」の手法を用いることによって、恐怖と混乱が支配する今の世の中の状況に対する疑念を表明する。また作中では、テクノロジーによって変わりゆく未来、宗教、移民問題、そして写真によるイメージの将来をどことなく連想させる要素が不気味に迫ってくる。本書で作者は、我々が写真集という形式によってイメージとイデオロギーを活性化しているという命題を提示している。






BOOK OF ROY by Neil Drabble
¥7,000 MACK


イギリスを拠点に活動するアーティスト、ニール・ドラブル(Neil Drabble)の作品集。1998年から2005年にかけて、アメリカ人ティーンエイジャー「ロイ」が少年から成年へと成長していく過程をイメージに捉えた。本書に収められた大量の写真はいつまでも色褪せることのない一時期の記録としても魅力的だが、それとじっくりと向き合うことによってコラボレーションやパートナーシップといった関係性や「1人の人間を追ったポートレイト」であると同時に「思春期の普遍的なイメージ」でもあるという機微なニュアンスが見えてくる。家族アルバムに出てくるような重要な出来事や、記録写真につきものである決定的瞬間などはあえて描写していない代わりに、通常は写真にされることのない気だるい時間、日常の中の「どっちつかずの瞬間」に注力している。幼少期と青年期の中間にある思春期には、もうすぐ大人になるという期待感と外の世界から守られてきた幼少期が失われることへの未練との間で葛藤が生まれる。顧みられることのない時間の取るに足らない変化にフォーカスしたこの写真は、見る者を思春期の真っただ中にいるような気持ちにさせる。人格が形成される重要な時期に1人の人物を親密な関係性の中で繰り返し撮影していると、自己の鏡像を作っているような感覚が湧き出てくる。それはまるで青年期にあるアーティスト自身の中に眠っている何かを再び目覚めさせるような、ポートレイトとセルフポートレイトの境界線を曖昧にするような作業である。陰鬱な1970年代のマンチェスターでアメリカのTV番組を見ながら育った作者は、ピザを食べ、ドクター・ペッパーを飲み、友達と夜遅くまで電話でおしゃべりして、雨の中バス停で待つのではなく自分の車を運転して好きなところへ行く、そんなティーンエイジャーたちがTVの中で送っているキラキラ輝く思春期の日々について妄想していたという。この作品で作者は、ロイを撮るというプロセスと、年上のフォトグラファーと年下の被写体との間で生まれたコラボレーションによって10代の自分を再演し、大西洋を越えて思いを馳せていたアメリカ人の若者の代役であるロイのあらゆる姿に自分自身を重ね合わせることができたと解釈することもできる。






THE CASTLE by Richard Mosse [FIRST EDITION, SECOND PRINTING]
¥11,000 MACK


Deutsche Börse Photography Prize 受賞のアイルランド人フォトグラファー、リチャード・モス(Richard Mosse)の作品集。ここ数年作者は難民・移民危機という継続的な問題を追いかけ、軍事規格のカメラ技術を駆使した写真を通じ、難民に対する政府や社会の見方に対し挑んできた。本作は、中東や中央アジアからトルコを抜けて欧州に入る大規模な難民・移民流入ルートに沿ってできたいくつもの難民キャンプや周辺地域の詳細な記録である。モーションコントロール技術を用いたロボットアームに、長距離国境警備や武装勢力の検知に使用される赤外線サーマルビデオカメラを取り付け高いところから撮影を敢行、様々な難民キャンプの全景を俯瞰的なイメージに収めた。こうすることで、それぞれのキャンプが周囲の市民のインフラとどのように関わっているのか、あるいは切り離されているのかを浮かび上がらせる。素材となる映像を何百ものフレームに分解し、コンピューター上でグリッドの構成に重ね合わせていくことによって合成の「ヒートマップ」を作りだした。時間と空間を切り取って作られたイメージは、人生が一旦停止したような、いつ終わるとも知れない宙ぶらりの日々の中で亡命が認められることを待ち続けるという難民たちの実体験に言及している。本書に収められた28の難民キャンプはそれぞれに注釈がつき、クロースアップされたシークエンスとしてそれぞれのページに表現され、開くと1枚のパノラマヒートマップとなる。このフォーマットの中で作者は、難民キャンプに見られる間にあわせの設備と共に国家やコミュニティがキャンプを社会の隅に追いやり、隠させ、厳しく管理し、軍隊を配置し、同化し、分散する多様なやり方を強調する。作者の作品は、グローバル化した資本主義の活発な自由貿易とEU諸国における国際難民法の非人間的な崩壊の間の誰の目にも明らかな断絶を指し示している。1926年に刊行されたカフカの未完小説『城』から名付けられた本書は、我々に難民の「可視性」と人権の侵害について問うことを求める。イラン人難民として現在オーストラリア政府によりパプアニューギニアのマヌス島に拘禁されている、ジャーナリストで作家のベルーズ・ブーチャニ(Behrouz Boochani)の詩、ペンシルベニア大学の英文学助教授ポール・K・サンタムール(Paul K. Saint-Amour)のエッセイ、哲学者ジュディス・バトラー(Judith Butler)のエッセイ、リチャード・モス本人の文章を収録。



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twelvebooksは、2010年に東京を拠点に設立されたアートブック専門のディストリビューターです。twelvebooksは、ヨーロッパを中心に海外出版社の国内総合代理店として書籍の流通やプロモーションに加え、関連作家の展覧会企画や来日イベントなど数多くのプロジェクトを手掛けています。twelvebooksは、 日本芸術写真協会(Fine-Art Photography Association)及び「The Tokyo Art Book Fair」のコミッティーメンバーを務めています。twelvebooksは、Dover Street Market Ginza 7F「BIBLIOTHECA」の共同キュレーションを手掛けています。


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