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text by Ryoko Kuwahara
photo by Mami Arai(portrait)

Our Body Issue : interview with Sputniko! 今日の違和感は未来の当たり前。だから私は単に“未来の当たり前を作る人”なんだと思います



現代美術家として、テクノロジーによって変化する社会を考察、議論するデザイン作品を制作するSputniko!。常識とされるものの見方にとらわれることなく、知識に裏付けながらも自由に飛躍する思考、俊敏な動き、常に前進する果敢さーー制作をスタートして以来変わらないその創造性と姿勢は多くの後続者に影響を与え続けている。2010年に発表された『生理マシーン、タカシの場合。』、そして2019年に発足したプロジェクト『東京減点女子医大』など、ジェンダーに関する作品にも意欲的に取り組んできたSputniko!に、その制作の原点と現状、未来について聞いた。

――『生理マシーン、タカシの場合。』の発表は2010年と、Sputniko!さんはジェンダーに関するテーマを取り上げられたのがとてもはやかったと思います。まず最初にSputniko!さんが身体や性のことについてどういう教育を受けていたか教えていただけますか。


Sputniko!「私は身体のことについて親から具体的に教えてもらったことはありません。親は結構プログレッシヴな人たちで様々なテーマについて話し合ってきましたが、性教育については“妊娠しないように気をつけてね”くらいでした。私は小学校5年生の時だけイギリスの母の地元にいて、その時に女の子だけ別室に連れていかれて生理についての勉強をしたのですが、“男の子も一緒にこの話を聞けばいいのに”と不思議に感じた記憶があります。まるで言っちゃいけない恥ずかしいことのように説明されることが不思議でした」


――イギリスでもそうだったのですね。日本での生理についての授業と同じです。


Sputniko!「母の地元がイギリスでも田舎の方だったからかもしれません。生理って自分の身体のことなのに、みんな初めは手探りのことが多いですよね。周囲にしっかりした身体や性についての教育がない場合、具体的なイメージを漫画や本などのメディアに頼ることも多いと思います。私も自力で何とか学ばなければと周りの友達に生理について尋ねたり、メディアで調べていました。なので、自分に初めて生理がきたときはそこまで戸惑いはありませんでした」


――個人的には性や身体について知るのははやいほうがいいと思っています。思春期に知ったら親に嫌悪感を抱いてしまいそうですし、自分についても変化の激しい時だと余裕が持てない、そこまでに間違った知識を持ってしまう可能性もあるので、子どもの頃にきちんとした性教育がなされた方がいいんじゃないかと。


Sputniko!「たしかに。特にメディアだと“セックスは恥ずかしいもの”というイメージが先行してしまうから、そのイメージを持ったうえで思春期に親もそれをしたという事実に直面してしまったら変な気持ちになってしまうかも。子どものうちに親が“そうした行為は恥ずかしいものではない”と教えれば気持ちが違いますよね。はやい段階で正しい知識をもつことは、性教育だけじゃなく推奨されていることです。例えば養子をとったり精子バンクを利用して生まれた子には、はやい段階に真実を言わないと、親に騙されたという気持ちになってしまうらしいんです。だからそうやって生まれてきた子のための絵本もある(LINK)。もしかすると性教育も絵本で学べるところがあるかもしれませんね。他の多くの多様性に関しても絵本でなら自然に入ってくるのかもしれませんし、セサミストリートなどもまさにそうした試みがなされていると思います」



生理マシーン、タカシの場合。(2010)
© Sputniko!
Courtesy of the artis



――作品と身体の関連に関してお聞きしたいのですが、私は“感覚と知識の共生”が Sputniko!さんの作品のアイデンティティの一つだと感じています。先におうかがいした生理などの身体の変化を通して、感覚と知識が乖離する体験をされたことはありますか?


Sputniko!「あります。女性は生理や妊娠、出産といったことでホルモンの量が変化しますが、一方で私たちが読む哲学書などは歴史的に男性が中心となって書いてきたものです。“人間には自由意思があり、自我があり、理性とロジックによって思考することが正しい”というような思想。でも彼らが確固たる自由意思だと思っているものがホルモンの状態によっても変化することを女性は毎月の定期的な体験でわかっているから、哲学書なんかに書かれている自我は常に相対的なものなんだなと感じます。それと生理があるからといって女性がイロジカルだという考えは全く別物で、むしろ女性は定期的にホルモンバランスの変化を感じているからこそ冷静に“今日はこういう日だから”と自身のコンディションを参考に自分をマネジメントすることができるのではないかと思います」


――まさに。Sputniko!さんはそうした体験を生理を疑似体験できる『生理マシーン、タカシの場合。』を作ることでアートに落とし込まれましたが、それによってまた違うご自身の身体と向き合う視点が生まれましたか?


Sputniko!「さっきお話したようなことを考えているだけだと友達同士の会話で終わってしまうものになりますが、私は作品を通してもう少し広く問いかけることや視点を投げかけることをしたいという思いがあり、生理を体験できるデバイスを作りました。
制作した理由はもう一つあり、私は当時コンピューターサイエンスや数学を学んでいてテクノロジーの分野を研究していたのですが、どうやらこのテクノロジーというものはその時の政治的・社会的・宗教的背景に左右されるものなんだと気づいたんです。特に私が進学したコンピューターサイエンス学部は学生100人のうち女性は9人しかおらず、世に出ているエンジニアも男性が多いんですね。それで、”遺伝子組み換えやテクノロジーが進歩していっているのになぜ私は未だに毎月血を流して苦しい思いをしているのだろう?”という疑問を抱き始め、色々調べてみると、実は生理は避妊用ピルを飲み続けることで回数を減らすことができるとわかったんです。“こんなの知らなかったよ! もっとはやく知りたかった!”と切実に感じました。避妊用ピルが出てきたとき、医師たちは生理の回数を減らすことができるということを“不自然だから”とあえて言わなかったのですが、もし政治や社会が男性ではなく女性中心だったらあっという間にこういった情報は行き渡っていたんじゃないかと。日本は国連加盟国の中では避妊用ピルの使用を認めたのが一番遅かったし、アメリカから34年遅れて認可されました。本当にすごい差だと思います。それに比べてバイアグラは日本では一瞬で、たったの半年で使用認可がおりた。最近でもアフターピルは女性に悪用されるとか政府の委員会で言われていましたが、その委員の男女比にもとんでもない偏りがあります。大事なことを決めているのは男性たちで、それはつまり私の身体を私がどう扱うかというコントロールを当事者でもない人たちがしていることなのだと気づいたんです。そういう言いたいことは沢山あったけれど、作品やライヴでそれを発信していこうと20歳くらいの時に思って作品を作り始め、2010年に発表したわけです」



生理マシーン、タカシの場合。(2010)
「ボクはオンナノコになりたい、オンナノコの気持ちをもっと知りたい!」ーーそんな想いから、こっそり女装を始めるようになった不思議少年<タカシ>。 しかし彼は女性的な外見を装うだけでは満足出来ず、 女性特有の生物現象である<月経/Menstruation>までも 身に着けるために<生理マシーン>を作る。 女性の平均月経量である80mlを5日間かけてタンクから流血し、 下腹部についた電極がリアルで鈍い生理痛を装着者に体感させる<生理マシーン>。タカシはそれを自ら着けて友人と夜のまちへ出かけるが...!?


――約10年前ですね。状況も今と違っていたと思いますが、その中でご自分で考え気づかれたその力に感服します。


Sputniko!「ギークなのですぐに調べちゃうんです(笑)。多くの人が“これは当たり前である”と考えていること自体が一種の奴隷意識に近い。“私は女だから生理が毎月あるのが当たり前だ”と大多数が思っているけれど、実はそうでなくてもいい時代だし、人間が“仕方がない”で済ませている色々なことをテクノロジーが乗り越えている。それに気づかず自分の人生を開放しきれていない人が多いと思います。当時からそういった苛立ちがすごくあったし、特に女性がどうやったらもっと自由に活躍できるのかを考えていました。この生理・妊娠・出産が抱える問題を科学者として解消するルート、そしてもう一つアーティストとして問題を沢山の人にシェアすることで社会を変えていくルートどっちにしようと考えたことがあります。それでアートを選び、拡がった結果が今ですが、科学者としてのルートも色々な可能性があると思います」


――改めて、そうした考えをはやくから持っていたSputniko!さんが、アラバマの中絶禁止法案の制定を知った時にどう思われたのか聞かせてください。


Sputniko!「アメリカの闇だと思いました。進歩してできることが増えると、保守派のほうもすごい力で止めようとする。本当に悲しいし悔しいけれど、アメリカはすでに分断してしまっているから、起こり得たことだとも思います。民主主義は一人一票というシステムで今までやってきたけれど、キング牧師やガンジーのような理想を持って世界を動かすような人たちがメディアで発信していた時代とは違い、今は誰でもメディアになるし、フェイクやヘイトの拡散もできてしまう。メディアも民主化すると、革新的だったり理想的なことをしたい人たちが辛い思いをする時代になるような気もしています。今の民主主義の崩壊を見ていると、悲観してしまいそうだけれど、悲観してしまうと何もできなくなってしまうから、こういった場で発信することで何か変わると信じて動いています。多数派でなくても、強い思想を持ったシスターフッドのようなコミュニティが大事な時期だと感じていますし、同じような価値観や思想を持った人たちがSNSで繋がりサポートしあえる環境を作れればいいと思います。フェミニストとして活動している人はSNSで発信するとアンチに絡まれてしまいがちなんですが、必要のない人には関わらなくていいと思います。相手にする価値がない人には時間や労力を費やさず、届くべき人に届くこと、シスターフッドに注力することが大切だと思います」



Tokyo Medical University for Rejected Women (2019)© Sputniko! + Tomomi Nishizawa Courtesy of the artists


―― そのうえでSputniko!さんはフェミニストを人間主義とおっしゃっていました。男性女性関係なく、みんなが解き放たれるべきだという。


Sputniko!「そう。私はみんながフェミニストなんじゃないかと思うんです。性別で自分のチャンスを狭められないようにしたいという、人間として当たり前のことを言っているだけなので、フェミニズムって女性主義より人間主義だと思うんですよね。私もうっかり“男っていつもマウンティングするよね……”みたいな愚痴を言ってしまう時があるけれど、もちろんそうでない男性も沢山います」


――制作を始められた学生時代と比べて社会における女性の捉えられ方やその権利に変化が出ていると感じられますか?


Sputniko!「当時は、日本ではフェミニズムがダサいものとされていました。怒っていてダサい、モテない女がフェミニストだみたいなイメージが蔓延していて。それが、ここ3年でガラッと変わったなと感じます。ミレニアル世代は声に出して言うし、ファッションにも結びつけているのが大きな変化です」


――時代の変化を受けて、 Sputniko!さん自身の制作に対するスタンスが変わることもありますか。


Sputniko!「24歳で生理マシーンを作って、いま34歳。この年月で結婚や子供を作ることへのイメージのリアリティが増して、自分のことがもっと見えてきた感じがします。自分は自由だと思っていたけれど、実はそれなりに価値観を社会に植え付けられていたんだという、自分の先入観にも気づかされました。あえて結婚をせず子供を産む選択的シングルマザー達と出会ったり、卵子凍結クリニックのことを学ぶ機会があり、今まで自分さえ「子供は誰かと結婚して産むもの」となんとなく考えていたことにびっくりしたし、突然世界の見え方がガラッと変わりました。私は自分のタイミングで自分の好きなように家族を作ることを選べるんだと道が拓けた感覚が得られました。生理や妊娠についての自分自身のこのような体験からも思いますが、今日の違和感は未来の当たり前です。だから私は単に“未来の当たり前を作る人”なんだと思います」



Sputniko!/スプツニ子!
現代美術家。1985年東京都生まれ。東京大学生産技術研究所RCA-IISラボ特任准教授。ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士課程を修了。2013年からマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教としてデザイン・フィクション研究室を主宰し、2017年より現職。RCA在学中より、テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作。最近の主な展覧会に,「Japanorama」(ポンピドゥー・メッツ,フランス)、「Nature – Cooper Hewitt Design Triennial」(Cooper Hewitt Museum,アメリカ)など。VOGUE JAPAN ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013受賞。2016年 第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」受賞。2017年 世界経済フォーラムの選ぶ若手リーダー代表「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。2019年にTED Fellowsに選出されバンクーバー開催のTED2019に登壇。著書に「はみだす力」。
http://sputniko.com



スプツニ子!× 西澤知美の新プロジェクト『東京減点女子医大』
2018年8月、東京医科大学が一般入試で女子受験者の得点を減点し、合格者数を抑えていた事件を背景に、日本の女性差別問題を皮肉と風刺をこめて作品化したプロジェクト。5/25六本木アートナイトでも作品とパフォーマンスを発表。
https://camp-fire.jp/projects/view/155137



Tokyo Medical University for Rejected Women (2019)© Sputniko! + Tomomi Nishizawa Courtesy of the artists


photography Mami Arai(portrait)
text&edit Ryoko Kuwahara

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