ヴィム・ヴェンダース「ユニゾン」1991、紙、HDプリント 36.4×51.5 cm ©️Wim Wenders/Kazutomo
現代ドイツを代表する映画監督・写真家である、ヴィム・ヴェンダースの展覧会『ヴィム・ヴェンダースの透明な まなざし』がN&A Art SITEにて、2024年2月1日(木)から3月2日(土)まで開催される。
ヴェンダースは1971年の長編映画デビュー直後からニュー・ジャーマン・シネマの旗手として注目を集め、『ことの次第』(82)でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、『パリ、テキサス』(84)でカンヌ国際映画祭パルム・ドール、『ベルリン・天使の詩』(87)でカンヌ国際映画祭監督賞受賞と、国際的な活躍を続ける。さらに、第76回カンヌ国際映画祭に出品し、主演を務めた役所広司が最優秀男優賞を受賞した最新作『PERFECT DAYS』(23)でも国内外から注目を集めている。写真家としても、ポンピドゥーセンターでの『Written in the west』 展(83・フランス)を皮切りに、ビルバオ・グッゲンハイム美術館(02・スペイン)、上海美術館(04・中国)など、世界中の美術館で展覧会が開催されている。
本展では、ヴェンダースが「究極のロードムービー」と称する『夢の涯てまでも』(91)のクライマックスシーンから生み出された、鮮烈な色彩の電子絵画作品「Electronic Paintings」(91)に加え、『パリ、テキサス』ロケ時にヴェンダースが撮影し、写真家としての才能を知らしめたアメリカ中西部の風景写真「Written in the west」(83)シリーズを展示。
ヴィム・ヴェンダース「Sun dries, Las Vegas, New Mexico」1983、紙、ダイトランスファープリント、31×37 cm
『ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざし / Wim Wenders’s Lucid Gaze』
https://nanjo.com/wim_wenders_lucidgaze/
会期:2024年2月1日(木)―3月2日(土) 12:00-17:00 (日) (月) (祝) 休
会場:N&A Art SITE(東京都目黒区上目黒1-11-6 / 東急東横線中目黒駅より徒歩5分)
企画:御影雅良 Mikage Masayoshi キュレーション: 墨屋宏明 Sumiya Hiroaki
主催:DART株式会社(代表取締役:墨屋宏明)、GCI BOOKS(代表:御影雅良)
協力:エヌ・アンド・エー株式会社(代表取締役:南條史生)
※展示作品は一部を除き販売。
※作品のご購入は会場での申込制。
本展は、「恵比寿映像祭 2024『月へ行く 30 の方法/30 Ways to Go to the Moon』の地域連携プログラム。
展示作品について
『夢の涯てまでも』のシーンで、主人公の盲目の母親は、最新鋭の機械を通して、主人公が世界中を旅しながら撮影したイメージを脳内で「見る」ことになる。そのクライマックスとなるシーンは、1990-91年に東京のNHK編集室において、当時の最先端映像技術であったハイビジョン(Hi-Vision)で制作され、ヴェンダースによって「夢のシークエンス」と名付けられた。ヴェンダースは制作の過程で、8ミリフィルム、16ミリフィルム、ビデオ画像、写真、ドローイングなどのアナログデータをデジタルデータに変換したときに、見た事もない絵のような幻影を偶然発見する。これらのイメージに主演俳優らの写真を撮影・合成し、 鮮烈な視覚表現を作り上げた。その「動く絵画」の中からヴェンダース自身が静止画像を取り出し、画像・色彩を操作しながら、当時最先端の印刷技術で高精細に出力した作品シリーズは「Electronic Paintings」と名付けられた。
ヴェンダースは「我々が行ったのは、ひとつの画像(フレーム)を構成している何百万という画素(ピクセル)の電子媒体を、自由に解き放してみようという試みだった。もし画家と同じように、自らの自然と湧き上がる意思で、絵筆やチョーク、絵具を使うように電子媒体をコントロールした場合どうなるかという実験だった。」と書いている。会場で同時に展示する本映画制作当時の貴重なドキュメントからは、当時の画期的な 制作の様子や時代背景を窺うことができる。
さらに本展では、映画『パリ、テキサス』撮影時の⽶国ロケハンでヴェンダースが撮影したアメリカ中西部の風景写真「Written in the west」シリーズを展示。アメリカ中西部の荒涼とした砂漠に点在する、人々に忘れ去られたような商業施設、澄み切った空には、ヴェンダースが捉えた「世界の涯て」が映し出されている。
今回、映画『夢の涯てまでも』のアソシエイト・プロデューサーを務めた御影雅良がコレクションし、30年以上保管していたヴェンダースの署名入り「Electronic Paintings」(A/P ポートフォリオ)及び、「Written in the west」シリーズから出展が可能となった。
ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざしは、映画の制作時から30年以上を経た現代社会において、テクノロジーから生み出される表現とは何か、そして、私たちがこれから歩む未来を生きるための新しい視点を提示してくれる。
■展覧会に寄せて
「世の中、大いに変わったよね。あの頃は、僕たちが最初にハイデフィニション・デジタル・アートの出現をこの目で、あそこのNHK編集室で目撃したのだよ。覚えているだろう。」とヴィム・ヴェンダースは、私の問いかけ(そろそろ「Electronic Paintings」の展覧会をやらないか)にすぐに応えた。
2022年5月のある日のこと、新作映画『THE TOKYO TOILET』(現『PERFECT DAYS』)の制作発表会があり、ヴィムから連絡があって私たちは32年ぶりに再会した。ほぼ2時間に渡り旧交を日本酒で温めて、話は多岐に渡った。大きな場所でやるにはもっと考えないと、今のデジタルが当たり前な世代には「伝わらない」かも、という懸念が彼にはあった。しかし、まずは小さな空間で33年前の始まりの姿を観てもらう事に意味がある、と理解を示してくれた。私は、今回展示するヴィムの作品群は、日本で生まれたテクノロジーを使ってアートを作り上げた美術史 に残る傑作だと思っている。
御影雅良(『夢の涯てまでも』アソシエイト・プロデューサー)
NHK編集室で「夢のシークエンス」を制作するヴィム・ヴェンダースとショーン・ノートン 1992 撮影:御影雅良
ヴィム・ヴェンダース|Wim Wenders
©️ Peter Lindbergh
1945年ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。ミュンヘン大学で映像制作を学び、1967年から映画監督としての活動を開始する。長編映画デビュー作『ゴールキーパーの不安』(71)で第32回ヴェネツィア国際映画祭 国際 映画批評家連盟賞を受賞。その後も『ことの次第』(82)でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、『パリ、テキサ ス』(84)でカンヌ国際映画祭パルム・ドール、『ベルリン・天使の詩』(87)でカンヌ国際映画祭監督賞、『ミリ オンダラー・ホテル』(00)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞と、国際的な活躍を続ける。大の親日家でもあ り、85年には、小津安二郎監督へのオマージュ作品『東京画』を製作。最新作『PERFECT DAYS』(23)では、主演を務めた役所広司がカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞し、国内外から注目を集めている。
写真家としても、ポンピドゥーセンターでの『Written in the west』展(83)を皮切りに、ビルバオ・グッゲンハイム美術館 (02・スペイン)、上海美術館(04・中国)など、世界各地の美術館で展覧会を開催。2022年には第33回高松宮殿下記念世界文化賞(演劇・映像部門)を受賞。
ヴィム・ヴェンダース「少年」1991、紙、HD プリント 36.4×51.5 cm ©️Wim Wenders/Kazutomo
ヴィム・ヴェンダース「Billboard painter’s studio, Glendale, California」 1983、紙、ダイトランスファープリント、31×37 cm