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BLACK LIVES MATTERについて知る:アメリカ黒人史編 – yuki




世界で巻き起こっている「BLACK LIVES MATTER」のムーヴメントに関して、日本語ではまだ適切な訳が見つかっていない。黒人の命は大切だ、黒人の命も大切だ、黒人の命の問題だーー様々な訳があり、自分の感覚に際した訳をそれぞれが適用しているのが現状(2020年6月9日段階)。それは日本語で定義できないからだという指摘もあるように、日本の特に地上波においてはBLMはどこか遠い他人事のような報じられ方をしているように感じる。一方、6月6日には東京、6月7日には大阪でBLMのデモも行われるなど、当事者はもちろんのこと、人種が違っていても自分のことのようにこの問題を捉え、心を痛め、アクションを起こす人々もいる。
その差はどこから生まれるのだろう。自分が知らないことに感情を抱くのは難しい。もしなにかの問題に声をあげることや人を他人事のように感じたり、うるさいと嫌悪感を抱く傾向があるのならば、まずは「知る」ことからはじめてはどうだろうか。世界が直面しているこの問題は、決して他人事ではない。日本で生活している中でも差別は根深く存在している。しかし、それらを「知って」いないと気づけない場合も、抵抗できない場合もある。知ること、学ぶことは力を身に付けることなのだ。
BLACK LIVES MATTERについて知る。その第2章として、アメリカで黒人史を含むアメリカ史を研究しているyuki(https://twitter.com/yk264)によって6月9日に行われたzoom講義を紹介。BLMが起こった背景となるアメリカの社会構造を理解するために非常に有益な講義である。動画はこちらにて





みなさん、こんにちは。
この動画では現在問題になっている警察暴力の問題が、いかに大きな人種差別の構造の一部であるかということを理解するためのデータを見ていきたいと思っています。差別の実態は数字にあらわれるものが全てではありません。人種差別による政治的、経済的な損失を数字で出すことは非常に難しく、また差別が精神状態や健康に与える影響というのも数字化するのは困難です。数字には限界があると理解しつつも、数字を見ないとわからないことも多い。特に外国にいる私たちにはそうだということで今日はいくつかデータを用意してきました。





まず、警察暴力について。
2019年に警察に殺害された人の数は1,099人にのぼるというデータがあります。
その内訳を見てみると、アフリカ系の人は警察に殺害される確率が白人の3倍高く、さらに詳しく見ていくと、殺害されたときに黒人の被害者は白人よりも1.3倍の確率で非武装であったことも明らかになりました。そして、右側のデータでわかることは、2013年から2019年の間に行われた警察による殺害が99%の確率で起訴に至っていないということです。





次に、この問題と関連が深い刑務所の問題に移りたいと思います。
左の図を見てもらうとわかるように、アメリカの刑務所の規模は1980年代頃から急速に大きくなっています。この頃から警察や裁判所の政策が変わり、微罪であっても長期に渡って刑務所への収容を命じるケースが急増しているためです。特に麻薬に関する取り締まりが厳しくなりました。そして、この打撃を直接受けているのがアフリカ系の人達です。白人男性の場合、一生のうちに刑務所への収監を経験するのは17人に1人。これが黒人男性の場合は、3人に1人になります。女性の場合でも同じ傾向が見られ、白人女性の場合は111人に1人、黒人女性の場合は18人に1人になります。


大量収監(Mass-Incarceration)の問題は警察暴力と地続きであります。
警察や裁判所が微罪でもどんどん人を逮捕して刑務所へ送っていくという政策をとった時、彼らは犯罪が起きやすいであろうと考える地域を集中的にパトロールしていきます。そうすると刑務所の中にいる人たちの人種の比率がアフリカ系の人達に偏っていく。
元からアフリカ系の人達は犯罪を起こしやすいというバイアスがあるからそういう結果になるわけですが、今度はそのような刑務所の人種の偏りを根拠にして、黒人の集住地域のパトロールが正当化されていくのです。そのために警察はこの地域は犯罪が多い、この地域の人達は犯罪を起こしやすいというバイアスを持って住民と接することになります。もちろん、そういう警察を住民たちはよく思わない。そのように緊張関係が高まっていき、警察との接触において暴力に晒される可能性が高くなる。このような状況は、白人が多く住んでいる地域では生じていません。つまり、警察暴力と刑務所の問題というのは、人種隔離の歴史と深く関連があるのです。





1950年代の公民権運動の成果として違憲判決が出て、人種隔離は無くなったはずではと思う方もいるかもしれませんが、この人種隔離の制度の遺産を掘り崩して、多様な人種が共生する街を作る政策をとるのにことごとく失敗してきたのが20世紀の後半でした。その例がシカゴです。
これは2010年の国勢調査の結果を基にして作成されたシカゴの地図ですが、この地図にあるように、シカゴの北側に住んでいるのが白人、南側が黒人、その間にヒスパニックの人たちと、どこにどんな人種の人たちが住んでいるのかが綺麗に分離されています。なぜこうなったのか。
その理由の一つは、住宅政策です。アフリカ系の人たちが家を持てるようにするための住宅ローンについての政策や公共住宅政策といった政策よりも、黒人が近くに引っ越してきたら自分たちの家の価値が下がってしまうという風に文句を言う白人の家の所有者であったり、不動産業者の意見の方が優先されてきました。
人種隔離が続いていることは、アフリカ系の人たちの声が政治に届いてこなかった、その政治的権利が奪われてきたことと深く関係があります。





なぜ黒人のための政策は無視されるのか。
単に彼らの数が白人に比べて少ないからではありません。アメリカ市民であれば誰でも投票の権利を持っている、しかしその権利の行使が妨げられているという問題があります。それは例えば、実際に投票するまでにいくつものハードルがあるということにあらわれています。
投票するためには事前の登録が必要である、投票の際には政府の発行した身分証を提示しなければならないなどのルールが多くあり、非常に厳しく運用されることで、特にアフリカ系の人たちが投票所に行っても投票できないということが起こっています。
さらに刑務所の問題と関連し、非常に大きな問題になっているのが重罪(felony)、つまり1年以上の懲役を受ける犯罪で前科のある人たちが投票の権利を奪われることです。地図を見ていただきたいのですが、濃い赤色の州では重罪で有罪判決が出た人は一生投票ができません。オレンジの州では刑期を終えるまで投票権が停止されます。水色の州では刑務所に服役中の人は投票ができません。
このようなルールがアフリカ系の人たちにより大きな影響を与えているのは言うまでもありません。むしろ、アフリカ系の人たちに投票させたくないとはっきり言ってしまうと大問題になるので、そう明言するのを避けつつ、アフリカ系の人たちの投票を抑圧するための効果を求めたルールとして考えるべきだと思います。つまり、19世紀以降解放された元奴隷の人たちが投票できないように導入された識字テストや、grandfather clauseというあなたの祖父が投票していたらあなたも投票できますというようなルールと同じ種類のものだと私は考えています。





なぜ差別の構造が再生産されるのか、どんな境遇に生まれても教育を手に入れらればそこから抜け出すことが可能になるということは理想ですが、アメリカのアフリカ系に人たちにとっては、そうなっていないという現状があります。
教育制度の問題も人種隔離の負の遺産です。教育の予算はどこから来るのか。アメリカの場合、連邦政府は公共教育に関わる予算の8%しか支出しておらず、それ以外のコストは州や市が負担するのですが、その財源というのは主に税金、特に住民の固定遺産税になります。そうすると裕福な白人が多く住む街が教育に支出できる額と、貧しいアフリカ系や有色人種の人たちが多く住む街が教育に支出できる予算は大きく変わり、直接的に教育の質のギャップに繋がります。
そしてこの問題は、教育の質を維持するために、有色人種の人たちには自分たちの街に住んでほしくないというような人種隔離を補強するような状況も生み出しているのです。アメリカの公立学校には予算が足りず、教材や教室の備品を揃えることさえできないという学校もたくさんあります。教育は貧困の連鎖を止めるどころか、その再生産の場になっているというのが現状です。


これらの数字から私が理解していただきたいと思っていることは、いま警察暴力の問題が取り沙汰されているわけですが、これが他の様々な問題と繋がっている、大きな人種差別の一部であるということです。
人種差別というのは個々人がなんとなく他の人種の人に対して嫌悪感を抱いたり、見下したりするということではなく、そういう態度を許容し続ける政治的、社会的な構造の話として理解することがとても重要です。
だから、例えば黒人を目の前にあからさまに差別的なことを言ったりしたことはないかもしれないけれど、その人たちが直面している構造的な問題に関心を持たず、その問題を指摘する声に聞く耳を持たないなら、やはりあなたも問題の一部ということになる。
これは、アメリカのアフリカ系の人たちだけについてだけではなくて、在日コリアンや部落差別についても同じことが言えます。
個々人が差別的なことを言わない、やらないというのはもちろん大事ですが、それは第一歩に過ぎず、人種差別主義者になりたくないのであれば、差別されている人たちの主張を聞いて、それを変化に繋げていくアクションを積極的にとらなくてはなりません。こういう意識が広がってきたことが現在のBlack Lives Matterの抗議活動の広がりにあらわれているのではないかと思います。
アメリカの場合、この人種主義に対する処方箋というのがいくつも考えられてきました。例えば、公共教育に対する連邦の支出を大きくして教育の質の不平等を無くす、警察の予算を減らす、微罪で長期収容するという方針を見直すなど、様々な解決策があります。問題が難しすぎて解決策が見つからないから解決していないという質の問題ではないと理解することが重要です。解決策は数多あり、世界で一番裕福なアメリカなら実行する予算もあるわけですが、それを実行するだけの政治の意志がないということが問題。つまり、有権者の意志の弱さが問題なのです。
Black Lives Matterは直接的には警察暴力への抗議ですが、長い目で見ると人種主義の構造を壊していくための処方箋はいくつもあるのに、いつまでたってもアメリカが行動を起こしてこなかった、そういう政府を市民が支えてきたということに対する失望、その中での私たちの生活は命は重要ではないのかという叫びがあると思っています。


今日の授業は以上です。次回は奴隷制度の歴史に移っていきたいと思います。


yuki
アメリカ史の研究者。アメリカ在住。
https://twitter.com/yk264
Youtube







BLM支援のための寄付
Black Lives Matter
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The Okra Project


被害者遺族への寄付

Official George Floyd Memorial Fund
Justice For Breonna Taylor
In Memory Of Tony McDade
I Run With Maud [Ahmaud Marquez Arbery]
Justice For Regis [Korchinski-Paquet]
Justice For David McAtee
R.I.P Belly Mujinga

署名
Justice For Breonna Taylor
• #JusticeForFloyd
Justice For Belly Mujinga
Defund The Minneapolis Police Department
National Action Against Police Brutality

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