カンヌ国際映画祭やトロント国際映画祭など各国の映画祭で絶賛され、昨秋に北米で先行公開された三池崇史監督の最新作『初恋』が、2月28日に満を持して日本公開される。三池監督のキャリア史上初のラブストーリーとしても話題の本作の主人公は、余命わずかなプロボクサーの葛城レオ。映画は、希望を見失い街をさまよっていたレオと、ヤクザの元から逃げられずにいる少女モニカが出会い、彼女を追うヤクザや悪徳刑事、チャイニーズマフィアから逃げようと駆け巡る、濃密な一夜の物語を奇想天外な描写で綴った快作だ。レオ役を演じたのは、約10年ぶりの三池作品となった窪田正孝。ヒロインのモニカ役には、約3000人の中から新人女優の小西桜子が選ばれた。他にも大森南朋、染谷将太、内野聖陽ら、豪華キャストが脇を固めている。ここでは、演技経験がほとんどないながらも、はかなげで純粋なモニカを見事に演じ切った小西桜子に、三池組での体験を語ってもらった。
——『初恋』は三池崇史監督初のラブストーリーということで、どんな作品になっているのか楽しみだったのですが、本当に面白かったです。演技がほぼ未経験だったとお聞きして驚きました。
小西桜子「ありがとうございます!」
——『初恋』のオーディションを受けたきっかけは?
小西桜子「マネージャーさんが応募してくれて、前の作品がクランクアップした次の日に受けたオーディションが『初恋』だったんです」
——オーディションを受ける時点で、作品の内容や役どころについてはどのくらいご存知だったのですか?
小西桜子「事前にいただいた課題台本にモニカという役の設定が書いてあって、トラウマがあって、PTSDから幻覚を見ると書いてあって……えっ、と思いました(笑)。そのときはまだお芝居を始めて3ヶ月くらいでオーディションにも慣れていなかったので、“がんばるぞ”という気持ちだけで行っちゃいました」
——モニカは複雑な役ですが、三池監督とはオーディションでどのようなお話をされたのですか?
小西桜子「劇中から抜粋されたシーンは演じたのですが、役についてのお話をされるというよりは、人としてのお話でした。これからどういう風になりたいとか、どういう人生にしたいとか、そういう話を聞いてくださったのを覚えています。一人の人間として、一人一人を見てくださっているんだな、というオーディションでした」
——最終的に3000人の中からモニカ役に抜擢されたそうですね。三池監督から理由は聞きましたか?
小西桜子「言われたかな……(笑)。でも本当に当時は何も知らなかったし、まったく素人同然という感じで行ったので、それがモニカに合ったのかな、と。モニカという無垢な子と、どこかがはまって選んでいただいたのかな、と今は思います」
——撮影に入るにあたって、どのような準備をされましたか?
小西桜子「期間も短かったのですが、準備をするにも何をしたらいいのかわからなくて。でもやっぱり、モニカという子の人生をちゃんと考えて、脚本で描かれていない部分を想像しました。モニカになりきれるように、どういう経緯があったんだろうとか、お父さんと何があったんだろうと考えて、“モニカのことは私が一番わかるぞ”という気持ちで準備して行きました」
——小西さんから見て、モニカはどんな人だと思いましたか?
小西桜子「モニカは心がすごくきれいな子だなと思います。幻覚を見る場面もあるけど、それってやっぱり、自分の過去や思い出を大事にしているからこそだと思うし、ピュアな子だなと思いました」
——ご自身と似ている部分はありますか?
小西桜子「私もけっこう昔の経験とか思い出は、ずっと大事にしています。もちろん良いことも悪いこともあるんですけど、自分の中で重く残っていることをすごく大事にする方なので、そこは似ているのかなと思いました」
——現場の熱が伝わってくるような作品でしたが、三池組でのお仕事はいかがでしたか?
小西桜子「そうですね、実際に現場でも常に熱量があって、映画を作ることが大好きなスタッフさんが集まっていました。三池監督をはじめ、本当に映画愛に溢れているというか、熱を感じて、すごい幸せだなって思いました」
——予想を絶する展開の連続で、撮影では大変だったことも多かったと思います。一番苦労したシーンや記憶に残っていることは?
小西桜子「レオとモニカが歌舞伎町で出会って、2人で話すシーンはけっこう難しかったです。幻覚を見て走る演技も難しかったし、ずっと息が上がっている状態でした。何度もテイクを重ねて撮ったので、本当に寒くて、震えが止まらなくて、ブルブルってなりながら、クラクラしながら演じていました」
——レオ役の窪田さんとの共演はいかがでしたか?
小西桜子「窪田さんはすごく優しくて、“自由にやっていいよ”という感じでした。“お芝居に正解はないし、たとえばこうやってもいいし、こうやってもいいよ”と言ってくれたりして、大きな安心感がありました。現場ではいろんなお話をしました。自分のプライベートなお話をしても聞いてくれるし(笑)、すごく優しかったです」
——現場での三池監督はいかがでしたか?モニカを演じる上でリクエストされたことはありますか?
小西桜子「三池監督も言葉で何かを言うというよりは、受け止めてくださって。あまりリクエストとかもなく、モニカの気持ちは私にしかわからないし、私の方がモニカのことを考えているだろうし、わかるはずだから、と。“自分の思うままに、自分の感情が動くままにやっていいよ”と言ってくれて。とても優しくて温かい方でした」
——完成した作品を初めて観たときの感想は?
小西桜子「すごく面白いなと思いました。脚本を読んで知っているのに、実際に映像を観ると“こんな風になっているんだ”とか思ったりするシーンがあって。知っていてもとてもびっくりしてハッとしたり、笑えたり、感動したり、観ていて感情がすごく動いたので面白かったです」
——ぜひ注目してほしいシーンはありますか?
小西桜子「私が好きなのは、レオとモニカが電車で移動するシーンです。面白いし、でも心が温かくなって、クスッと笑えるんです。モニカ的には初めてレオと打ち解けるシーンだから、すごく印象的だし、好きなシーンなので注目していただけたらな、と思います」
——家族や友人など、周りからの反応はいかがですか?
小西桜子「まだ公開前なので観ていない人が多いのですが、アメリカで先行公開しているので、唯一現地にいる友だちが観てくれました。私じゃないみたいというか、私としては観ていないというか、まったく別物として感じたみたいで、それはうれしいですね。ちゃんと作品として面白く観てもらえたならうれしいし、みんなにそう思ってほしいなと思いました」
——本作が出品されたカンヌ国際映画祭にも行かれたそうですね。
小西桜子「すごく貴重な経験でした。海外の方はリアクションが素直だし、笑うところはすごく笑ったりして、面白かったし新鮮でした。カンヌでは客席に座って観ていたんですけど、周りが笑っていると椅子が揺れるくらい、ドカン!と(笑)。みんなで体験する感じが日本だとなかなかないと思うし、とても面白かったです」
——モニカを演じた日々から得た、一番大きなものは何だと思いますか?
小西桜子「モニカはすごく心がきれいな子だと思います。私はモニカとは違う部分もあるんですけど、いろんな想いや心を込めて演じたので、演じているうちにモニカの感情の揺れ動きに共感するようになって、だんだん自分とモニカが重なる部分が出てきました。それを体験できたのはすごく大きいなと思います。モニカという役と向き合ったことで、これからもお芝居や人に対して、心を込めてなるべく誠実な気持ちで向き合いたいなと思うようになりました」
——今後のご活躍も楽しみです。女優としての目標や憧れの人がいたら教えてください。
小西桜子「目標はあまり決めないようにしています。好きな女優さんはいっぱいいるのですが、誰というのは決めずに、自分にしかなれない、新しい、今までにないような自分らしい女優になれたらいいなと思っています」
——将来的に演じてみたい役はありますか?
小西桜子「今まではそれこそモニカみたいな、ちょっとあんまり現実的じゃないような役が多かったんです(笑)。だから、逆に普通の等身大の女の子とか、学園もののラブコメで恋愛する役とかやってみたいです」
——モニカ役を経験したら、どんな役でも演じられそうですね。
小西桜子「いやいや(笑)。あのときの私は緊張感で追い詰められていて、それが逆にモニカという役とつながる部分があったので。逆にあのときの自分が普通の女の子の役を演じる方が難しかったかもしれないな、と今となっては思います」
——撮影を終えて、三池監督から何か言葉はありましたか?
小西桜子「三池監督はシャイなんです(笑)。でもすごく優しくて、あまり何か言うとかはないけれど、笑顔で温かい目で見守ってくれました」
photography Shuya Nakano
text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara
『初恋』
2月28日全国公開
hatsukoi-movie.jp
―最期に出会った、最初の恋―
舞台は、さまざまな事情を抱えた人間たちが流れ込む欲望の街・新宿歌舞伎町。天涯孤独ながら希有な才能を持つプロボクサーの葛城レオ(窪田正孝)が、負けるはずのない相手との試合でKO負けを喫し、試合後の診察で余命いくばくも無い病に侵されていることを知る。自暴自棄になったレオが、気もそぞろに繁華街を歩いていると、男に追われる少女に出くわす。ただ事ではない様子を察したレオは条件反射的に男をKO。気を失った男のポケットにあった、警察手帳をとっさに懐へとしまうと、少女の後を追った。少女はモニカ(小西桜子)と名乗り、親の虐待から逃れるように街へ流れついて、ヤクザに囚われていたことを明かす。KOされた男は悪徳刑事・大伴(大森南朋)でヤクザの策士・加瀬(染谷将太)と裏で手を組み、ヤクザの資金源となる“ブツ”を横取りしようと画策、モニカを見張っていたのだ。ヤクザと大伴から追われる身となったレオだが、モニカと自らの境遇が重なる部分もあり、どうせ短い命ならと半ばやけくそで彼女を救おうと決意する。一方で、モニカと共に資金源となる“ブツ”が消えさらにヤクザの一員・ヤス(三浦貴大)が殺されたことを彼女のジュリ(ベッキー)から知らされる組員一同は、組長代行(塩見三省)の基で今にも一触即発の様相を呈している。一連の事件をチャイニーズマフィアの仕業だと踏んだ組随一の武闘派・権藤(内野聖陽)が組の核弾頭・市川(村上淳)と共に復讐を決意し、ジュリも後を追った。ヤクザとチャイニーズマフィアに悪徳刑事。ならず者たちの争いに巻き込まれた孤独なレオとモニカが行きつく先に待ち受けるものとは……。欲望渦巻く繁華街で出会った孤独な二人が過ごした、人生で最も濃密な一夜の結末や如何に。
窪田正孝 大森南朋 染谷将太 小西桜子 ベッキー
三浦貴大 藤岡麻美 顏正國 段鈞豪 矢島舞美 出合正幸
村上 淳 滝藤賢一 ベンガル 塩見三省 ・ 内野聖陽
監督:三池崇史 脚本:中村雅 音楽:遠藤浩二
企画・プロデュース:紀伊宗之 プロデューサー:ジェレミー・トーマス 坂美佐子 前田茂司 伊藤秀裕 小杉宝
共同プロデューサー:飯田雅裕 ラインプロデューサー:今井朝幸 青木智紀 キャスティングプロデューサー:山口正志
撮影:北信康(J.S.C.) 照明:渡部嘉 美術:清水剛 録音:中村淳 装飾:岩井健志 編集:神谷朗
VFXスーパーバイザー:太田垣香織 キャラクタースーパーバイザー:前田勇弥 ヘアメイク:石部順子
画コンテ:相馬宏充 スーパーヴァイジングサウンドエディター:勝俣まさとし
スタントコーディネーター:辻井啓伺 カースタント:雨宮正信 野呂真治 俳優担当:平出千尋
助監督:山口将幸 制作担当:鈴木勇 音楽プロデューサー:杉田寿宏
製作:「初恋」製作委員会 制作プロダクション:OLM 制作協力:楽映舎
配給:東映
(C)2020「初恋」製作委員会
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Twitter:@hatsukoi2020