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アドレスホッパー&モバイルオフィス対談「移拠点生活した人、する人、したい人」




クリエイティブディレクターの坂田ミギーさんが世界一周旅の経験を綴った著書『旅がなければ死んでいた』が、6月28日にKKベストセラーズから発売されました。この本の刊行を記念して、各所で開催されているトークイベントのひとつ、7月4日に下北沢の本屋「B&B」で行われた「移拠点生活した人、する人、したい人~アドレスホッパー&モバイルオフィス対談」のレポートをお届けいたします。


ゲストは、日本や世界の各地を転々としながら仕事をする生活を続けているアドレスホッパーの市橋正太郎さん。キャンピングカーをモバイルオフィス兼住居としている坂田さんとともに、一箇所に定住しない生活の魅力を、始めたきっかけから将来のビジョンまで幅広く語っていただきました。司会進行を務めるのは、ご自身も移拠点生活に可能性を感じているというRIDE MEDIA&DESIGN株式会社代表取締役CEO・酒井新悟さん。イベントは酒井さん用意した質問を軸に展開していきます。まずは現状確認からスタート。





『移拠点生活者って増えてるの?』


市橋さんによれば、リクルートが去年出したレポートでは、生活拠点が2箇所以上あるという人は、現在日本で17万人以上。「今、住み方に対する考え方や価値観が変わってきていて、それに対してマーケットがついてきている感覚があります。移拠点生活者向けの居住サービスも出てきましたしね」と市橋さん。


なお、移拠点生活者には2種類の潮流があるといい、ひとつは大型車にベッドやワークスペースを併設して生活や仕事もそこでする、ミニマリズムからバンライフの流れにあるタイプ。


もうひとつはデジタルノマドやフラッシュパッカーとも呼ばれる、家賃の安いところに旅をしながら自国の仕事をすることで豊かな生活を送るタイプ。市橋さんが名乗るアドレスホッパーは大枠で後者に分類されますが、「デジタルノマドは物価の安いところで生活することで得られる差分によって豊かに暮らすというニュアンスが強いかもしれません。アドレスホッパーはどちらかというと、お金のためというより移動することに価値を見出していて、ちょっとしたカルチャーの違いがあります」と説明。


酒井さんも「旅行にしても人によってスタイルは違いますからね。それぞれの取り上げ方が重要な気がしています」と応え、スクリーンには次の質問が映し出されます。


『なんで移拠点生活をはじめたの?』


坂田さんは「世界一周に出るにあたって、家を引き払い、全財産バックパックに収まるだけにしました。帰国してからも意外とその荷物だけで生活できちゃってることに気付いたんです」と、回答。「旅立つ前はキノコのグッズを集めていて、そのコレクションが家にめちゃくちゃあったんですけど……物がなくても全然問題なくて。それと、帰国後に借りた家が自分とあまり合わなくて、仕事を終えて毎日ここに帰ってくるのもしんどい。だったら家ごと移動できるといいなと。その結果がキャンピングカー生活になりました」


一方、市橋さんの場合は「スタートアップ業界に転職したら、それまでと全然違うめまぐるしいスピード感なんですね。なのに家に帰ると落ち着いた雰囲気。翌朝また仕事モードに戻して、帰ってのほほんとして、というギャップがきつく、でも会社を辞めるわけにはいかない。だったら生活のスピードを変えてやろうと考えました」その結果、まずはAirbnbやホステルでの生活。「1週間とか1ヶ月単位だと割引してもらえて月3万円程度で泊まれるところもあるんです。それならいけるわと」


確かに、移拠点生活を始めるにあたっての大きな問題はお金となります。そこでこのような質問も。


『移拠点生活ってどんぐらいお金かかるの?』


坂田さんはキャンピングカー生活だけあって、車を買うのには当然ながらお金がかかっていますが、「リセールバリューが高いので、不動産ならぬ可動産だと思えば大丈夫。車のサイズが大きいから駐車場だけはちょっと困るけど、探せばあります」と、長期的に考えれば充分に安く済む様子。


Airbnbやホステルで生活する市橋さんは「そもそも家賃の初期費用がかかりません。光熱費もいらないし。部屋はドミトリーなら相当安いし、ときどき個室に泊まっても、平均で1泊3千〜4千円というところです。シェアハウス時代は家賃が月に12〜15万円ぐらいでしたけど、今は宿泊費10万程度」と、こちらも全体的に安くなることを体験されています。


『ライフステージどう考えてます?』


坂田さん、市橋さんともにお子さんはいませんが、生まれてからのこともリサーチしています。


「実際に子育てをしながら移拠点生活をしている人も結構います。教育については自分たちで教えることもできるし、今はオンラインでできる教材もあって、それである程度まかなえるようになってきています。それに高校生ぐらいになったらいっそ留学という選択肢もありますしね」と市橋さん。ただ、問題はその間の時期、と市橋さんは続けます。もっとも市橋さんは「そうやって移拠点生活で育った子どもが、後に故郷を聞かれた時にどう答えるのか気になりますよね」とも。坂田さんも「地球全部が故郷と答えるようになるかもしれませんね」とグローバルな希望を口にしました。


『移拠点生活をはじめたい人に、まずおすすめの方法は?』


移拠点生活をすでに始めている人たちが増え、それに向けたサービスが出揃いつつあっても、やはりこれまでの定住生活をガラッと変えるのはハードルが高そうです。しかし市橋さんは「家はあってもいいんです」と話します。「大事なのは、1拠点にこだわらず、移動するということです。別の町に1週間住んでみるとか、そういうところから始めてみるといいと思います」


坂田さんは「移拠点生活というと遠くに行かなきゃと思うかもしれないけど、東京の中で移動してみるというのもいいですよね」と提案。


また、会場のお客さんからの「どういう人に移拠点生活を勧めますか」との質問には、「やりたい人は全員向いていると思います」と力強く答える坂田さん。さらに「自分が今いる場所の居心地が悪いと思ったら、移拠点生活をやってみるというのもいいと思います。居心地が悪いのは自分のせいではなく、そもそもそのコミュニティと自分との相性が悪いことだってあります。居場所を変えてみるとしっくりするところが見つかるかもしれません」と、現代のストレス社会ならではの問題点にも触れる展開に。


そして酒井さんが用意した最後の質問がこちら。


『これからの新しい暮らし方、働き方ってどうなる?』





坂田さんは「長い目で見ると日本中、都市部をのぞいて消滅していく集落がたくさんあります。そういうところにとって、市橋さんのようなアドレスホッパーの存在は希望になると思うんです。こうした場所にも気軽に行って、内部の人たちだけで解決できないことに気づける、しかも発信もできるじゃないですか。集落で内部向けに作っている商品も、外部の人が見つけて外でも売れるようになれば、そこに雇用が生まれる可能性だってある」と希望を語ります。


実際、坂田さん自身も箱根に一軒家を借りて1ヶ月暮らした際、現地の方々と前向きな交流があったとも話します。「市橋さんが大事にしているのもこの辺りですよね」と酒井さんが促すと、市橋さんも「たまたま出会った人たちの、そこにしかないつながりの中に入っていくようにしています。テーマも宿も決めず、ただ電車や飛行機のチケットだけとって」と、偶然の展開を楽しむようにしていると答えます。


とはいえ、酒井さんからは「地元の人と仲良くなったら楽しいんだろうけど、その一歩が億劫だったり苦手だったりする人もいると思う」との疑問も。これに坂田さんは「私も実はそうなので、自分一人になれるスペースを持つようにしています」と回答。市橋さんも「僕もそういうときは個室をとってこもるようにしています。自分で選べるのがこういう生活のいいところ」と話します。


坂田さんは「最終的には定住できるところを探しているんですよ。自分に合う、しっくりくるところで暮らしたいという気持ちがあります。だからいろんなところに住んでみて、探しているんです」と話しつつ、「行く先々の土地にとっても、外部からやってくる人たちの存在が何らかの新しいきっかけになることもありますから、とりあえず始めてみてほしいですね」と、改めて移拠点生活をおすすめして、この日のイベントは終了となりました。

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